『太鼓たたいて笛吹いて』

観劇記 あまご 

          作 :井上ひさし   
           演出:栗山民也 
          
         


  芝居を見る一月前の1月25日、大竹しのぶさんが朝日新聞で秘密保護法の成立に危機感を抱きながら、今の世が戦前と重なって見えると語っていました。「太鼓たたいて笛吹いては」時局に踊らされ従軍記者となり、戦後は戦いに打ちのめされた庶民の悲しみを伝えようと決心する林芙美子の一生を描いた芝居です。

  大竹さんは、昨年12月に成立した秘密法に反対する映画人の会に名を連ね、「なぜこの法律が必要なのか、詳しい説明もないまま乱暴なやり方で通ってしまった。そのことに恐ろしさを感じる。上のほうの物語を作る人達によって決められ、違う方向に動かされていくような。演じながら、太平洋戦争を始める前ももしかしたらこんなんだったのかって思いました」と、語られていました。私も、今の日本はどこに向かって進もうとしているのか、とても大きな危機感がありますから、大竹さん達の演じるこの芝居をとても興味深くそして注目していたのです。

 
パンフレットより

 あらすじは、『放浪記』で一躍有名となった林芙美子も日中戦争が始まると、時流にあわないという理由で出版した本が発禁処分されてしまいます。金儲けを企むプロデューサー三木孝は、「戦さはもうかるという物語」を芙美子に吹き込み、説得し、従軍記者へと仕立て上げ、南京攻落直後に女流作家一番乗りして、世間の喝采を浴びます。芙美子はその後も、陸軍の報道班員として、『太鼓たたいて笛ふいて』と時代の片棒を担ぐことになったのです。しかし、シンガポールやジャワ、ボルネオと従軍した林芙美子が目のあたりにしたものは、国土拡大を大義名分にした、日本軍による東アジア侵略であり暴挙でした。芙美子はその後一転、戦争で傷ついた人々の悲しみを書き続ける作家に転向(?)します。
  日本はきれいに負けるしかないと主張する芙美子。「非国民」と言われ、日本が嫌いなのかと問われ、こう歌う。「私は日本を愛している。この国、滅びるにはあまりにも素晴らしすぎるから」

  この芝居は、とてもよくできた音楽劇でした。私たちは前から3列目、朴勝哲が現れて静かにピアノを弾きはじめ、場内が闇の底に沈むと「ドン!」6人の俳優が現われて、愉快な「行商人の歌」が始まります。梅沢昌代さん達の表情が何とも言えません。暗くて辛い物語なのに、さすが井上ひさし作品、暗いけれど明るく、辛いけれど楽しく・・・大竹しのぶら6人の役者たち、今の時代の流れに流されずひたすら生き抜く姿、いい芝居を観ることが出来ました。
 
配役
 
林 芙美子(32)
林 キク(67)
島崎 こま子
加賀 四郎
土沢 時雄
三木 孝
ピアニスト
大竹しのぶ
梅沢昌代
神野三鈴
山崎一
阿南健治
木場勝巳
朴勝哲 ぱく すんちょる

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