『櫻の森の満開の下』

観劇記 あまご 
          作     :坂口安吾   
           脚本・演出:広渡常敏 
          音楽    :池辺晋一朗
         
東京演劇アンサンブル
倉敷市芸文館ホール
2014年4月8日(火)
 毎年例会候補に挙げられながら、関西では上演されることがなかったこの芝居、いつかは神戸に来るものと楽しみにしていたのですが、倉敷・岡山・広島での上演が最後だと聞き、芝居仲間と倉敷まで見に行ってきました。
 櫻の花が満開の頃、神戸から新快速電車に乗って相生まで、そこから各駅停車で岡山、そして倉敷と、車窓から桜を眺めながら、修学旅行のような気分で、これから見る芝居に思いを馳せていました。倉敷市芸文館ホールは駅から歩いて15分、大原美術館の直ぐ近くにあって、美観地区の櫻の並木も美しく、素敵な場所にありました。観客席は800名程度で、比較的新しく、芝居を見るには快適なホールです。
 坂口安吾の「櫻の森の満開の下」は名作中の名作、若き頃、何度も読み返した物語、何度の映画化されたこの作品が、舞台でどう演じられるか、芝居は始まる前からワクワク感が高まります。いつか、雑誌「悲劇喜劇」で入江洋介さんが2トンの桜吹雪が舞い散ると書かれてましたから、これもまた楽しみです。そして中盤の見せ場、恐ろしい首遊びのシーンもどんな風に演じられるのか、またまた最後のシーンはどうなるのか、話の筋が解っていても、とても気になるこの物語の展開、この物語の凄さはそこにもあるのかもしれません。
 開演の挨拶が終わっても、なかなか芝居が始まりません、ちょっといらいらし始めた頃、びっくり仰天、意表を突いた、あっと驚くような幕開けでした。
 劇中の展開は、新劇の世界では珍しい仕掛けもたくさんあって、歌舞伎のような派手な場面もあるかと思えば、谷崎の「陰翳礼讃」のような日本美の世界が広がり、首遊びのシーンはテンポラリーダンスのような現代的な表現で演じられました。多彩な表現方法による、狂気の世界が実に美しく表現され、不思議な充実感を覚えた見事な舞台でした。女が鬼になり、男も狂い、櫻の花が激しく降りしきる中に倒れ櫻の花びらのなかに消えてゆく女と、呆然とたたずむ男、降りしきる櫻・櫻・櫻
 この芝居、見れてよかったと、ただ、一言に尽きます。

男 大多和民樹
女 原口久美子


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