『あまご観劇記 仁義なきタイタス・アンドロニカス』

観劇記 あまご 
2014年8月日5日 
SPACE雑遊 
          作 :シェイクスピア 訳:松岡和子
          演出:木村龍之介 カクシンハン
                   
 今年、2月9日にアイホールで観た、作・演出:深津篤史による「のにさくはな」のモチーフは「タイタス・アンドロニカス」、全く理解できなくて、シェイクスピアの原作を読んで、その残酷さと面白さに驚きました。折しも、今年はシェイクスピア生誕450年、これをきっかけに、全37作の読破を決意した作品です。
タイタスは長年にわたるゴート族との戦争に勝利しローマに凱旋します。この戦いで25人の息子の内21人が亡くなり、戦いの犠牲となった息子たちの魂を鎮めるために、捕虜としたゴート族の女王タモーラの長男を生贄としたのが復讐劇の始まりでした。しかし、タモーラの美しさに目が眩んだ皇帝サターナイナスは、王妃にタモーラを迎え、彼女の意のままに操られることになります。長男を殺され、タイタスに対する復讐心に燃えるタモーラは愛人であるムーア人エアロンと共謀し、タイタスの二人の息子を皇帝の弟殺しの罪に落とし入れ、タモーラの息子二人がタイタスの娘ラヴィニアを強姦し、彼女の両手と舌を切り落としてしまうという、実にむごたらしい展開となります。森をさ迷う変わり果てた娘を発見したタイタスは、復讐を決意するのでした。ここまででも十分残酷ですが、このあと繰り広げられる復讐も残酷、まさに血みどろの展開となります。  

 観客席は横14、縦5列、70人程入れる小さな空間、真っ赤に塗られた床と正面奥に細長い桟橋のような狭い舞台?があって、左右に桟橋に繋がる小さなブリッジがあります。これから始まる血みどろの復讐劇が暗示されているようです。この芝居、しっかりした台詞と動きのあるシェイクスピア劇、タイタスは新国立の「テンペスト」で怪物キャリバンを演じた河内大和(こうちひろかず)、娘ラヴィニアと悪魔のようなムーア人エアロンを真以美(まいみ)が二役、他にも残酷さをカバーするかのような工夫のある配役になっていました。バックの音楽はギター、意外な人が演奏していてちょっと驚きでした。
 圧巻は、タモーラがエアロンそっくりの黒い子どもを生み、タモーラの息子たちが殺そうとする中で、必死に守ろうとするエアロン。悪魔のような男でもやはり自分の子供は可愛い、残酷な復讐の連鎖にあって、生きる事への執念が感じられる場面です。そして、タイタスの息子リューシアスに捕まってエアロンは絶体絶命、
 いま俺が心底残念に思うことは一つしかない。
 何千何万て悪事がもうできないってことだ。

白い衣装のラヴィニアが黒い衣装のエアロンになって、生きたいと高らかに叫び続けるこの場面は興奮します。
 そして、舞台は壮絶な終局を迎えます。タイタスが愛する娘を自らの手で刺殺し、返す刃で皇后タモーラをも、怒り狂った皇帝サターナイナスがタイタスを刺し、リューシアスがサターナイナスを、血みどろの舞台の中で叫ぶエアロン、シェイクスピアの「悪の魅力」
 思いどおりにしていいなら、
 これまでしでかしたことの何万倍もひどい悪事をしてやりたいね、
 おぎゃーと生まれて以来ただの一度でも善いことをしたとすれば、
 心底それを悔やむことだろう。

初めて舞台で観た「タイタス・アンドロニカス」、その残酷な復讐劇の中に、生きようとする者の凄まじいエネルギーが感じられる素晴らしい舞台でした。
 今世の中を見渡すと、正義という名の下で、罪のない多くの人たちを巻き込んだ殺戮が繰り返されています。やられたらやり返す、しかも無差別に・・・。軽い『正義』という言葉に隠れて悲劇の幕が上がり始めています。『悪』と『正義』。「いいは悪いで、悪いはいい」 という、マクベスに出てくる魔女の台詞が浮かびます。壮絶な芝居を見終ったあと、時間が経つにつれ、様々の想いもまた浮かび上がってくるのです。
ラヴィニア/エアロン
タイタス・アンドロニカス
サターナイナス
タモーラ
マーシアス
ルーシアス
ディミートリアス
マーカス・アンドロニカス
バシエイナス
ミューシアス
ケイアス
クインタス
カイロン
アラーバス
真以美
河内大和
丸山厚人
白倉裕二
永濱ゆう子
辻井彰太
新保亮介
齋藤穂高
別所晋
柿原祐人
中久木亮
鋤柄拓也
福元大介
星野哲也


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