『鼬 いたち』

観劇記 あまご 
2014年12月1日 
世田谷パブリックシアター 
          作 :真船 豊  
           演出:長塚圭史 

                   
 『鼬』の千秋楽は昨年の暮れ12月28日
つい先日でした。
私が観たのは一月前の12月1日
初日の舞台でした。
初日からとても気合の入った芝居でしたから
千秋楽はさぞかし盛り上がったのではないかと思います。
有名な作品ですが
関西ではあまり上演されたことはないようです。
民藝が平成元年に
最近では青年座が平成20年に上演していますが
関西には来ませんでした。
東北の旧家を舞台にした
どろどろとした芝居ですから
関西向きでは?ないかもしれませんが
日本の近代化の原点のようなものが感じられ
良きも悪しきも
特に
田舎を持たない若い人たちには見ておいて欲しいと思いました。
私の故郷も山陰の片田舎で神戸にやって来た時は
田舎の呪縛から解放された気持ちで
これから新しい生活が始まるのだと
浮き浮きした想いでした。
あれから、ながい年月が経ち
今頃になって
忘れかけていたあの頃が懐かしく思い出されます。
この芝居の原点もそこにあったのかもしれません。

芝居の縁というものは不思議なもので
昨年の6月
山陰は城崎で「日本劇作家大会」が開かれ
若手劇作家たちによる
『3年と19年-震災を考える』というシンポジュームに
参加した後
長塚圭史さんが司会された
「近代劇・新劇・現代劇」という
スペシャル座談会を聞かせていただきました。
これも縁というのでしょうか
『鼬』の舞台は福島
震災をテーマにしたシンポジュームと関係があったのかなかったのか
長塚圭史:真船豊
意外な組み合わせにも魅かれ
世田谷パブリックシアターの
初日の舞台の席にいた私たちでした。
 長塚さん演出の芝居はこれまで何本か
(『ガラスの動物園』『南部高速道路』『浮漂』)
を観ましたが
いずれも
斬新な演出で
舞台が輝いているのです。
世田谷パブリックシアターの席に着くと
舞台の天井高く積み重ね上げられた沢山の梁
そこに鼬が蠢いているような錯覚を覚えました。

田舎の友人の家に泊まっていた時
天井梁に青大将が這っていたことを思い出しました。

ちょっと不気味な感じがしますが
実際はとても可愛らしい顔をした生き物です。
さて
どんな芝居なのか
舞台の高い天井を見ながら期待が膨らみます。

《ものがたりです》
  千秋楽の後ですから、シス・カンパニー公演パンプレットから紹介します。
 
昭和初期の東北地方。鉄道から五六里離れた、ある旧街道に沿った村。元は家老の定宿であった「だるまや」は今やすっかり落ちぶれ、家屋敷は抵当に入っている。当主の萬三郎(高橋克実)は南洋に出稼ぎに出たまま早三年、老母のおかじ(白石加代子)が一人家を守っていたが、ついに家屋敷の処分が決まった。こんな時に、やくざ者の亭主が服役中の娘おしま(江口のりこ)が子連れで家に転がり込み、日がな酒びたりという有り様だ。百姓の喜平の差配で、債券者である伊勢金のおかみ、馬医者の山影先生、古町のかか様が集まり、それぞれの取り分を巡って腹を探り合い、火花を散らす。
 そこへ、馬車引きの弥五の案内で、いかにも金持ち然とした身なりの女が現われた。だるま屋の先代の娘で、おかじには義理の妹にあたる、おとり(鈴木京香)だ。若い頃にさんざん悪事と不義理を働いたあげく村を出奔し、度胸と悪知恵ひとつで各地を渡り歩き、今では上州の織物工場を経営するまでに成り上がっていた。おとりの出世ぶりを目の当りにし、態度を変え始める村人たち。だがおかじだけは相続争いなど過去の所業に対する恨みも根深く、「この泥棒鼬ッ!」と罵り、怒りをあらわにする。そんなおかじを冷笑しながら、おとりは思いもよらぬ知らせを告げる。この家の当主でおかじの息子の萬三郎が、間もなく南洋から帰国するというのだ。
なぜ母のおかじも知らぬことをおとりが知っているのか、おとりの真の目的は何なのか・・・。おかじの疑念が深まる中、その萬三郎が帰国した。


 解説では
 「むき出しの業と欲がうごめく昭和初期の大ヒット作」と初演当時の模様が書かれていました。

 戦前・戦後の演劇界で数多くの作品が上演された劇作家。真船豊。そのデビュー作にして大ヒットを飛ばしたのが本作『鼬』だ。初演は1934年(昭和9年)真船の故郷である福島県会津地方の農村を舞台に、没落した旧家をめぐって肉親同士の骨肉の争いが赤裸々に描かれる。初演当時、農村ドラマでは主流だったプロレタリア演劇でなく、貧困の中で金の力に翻弄される人間たちの業と欲を、徹底的にリアルな筆致と東北弁の台詞で描いたことで大きな注目を集めた。





 芝居を見終って
ひと月以上経ちましたが
改めて
パンプレットを読みながら舞台を思い出してみると
解説にあるように「むき出しの業と欲がうごめく」壮絶な芝居でした。

特に印象に残った場面
主人公のおとり(鈴木京香)が
織物工場を経営し成功して行く背景には
口減らしのために家を出て
無給で働く幼い少女達がいたこと
給金が稼げる頃になると追い出す
そして新たに幼子を引き取る
日本の近代化の始まりはこのようなことがあったと
日本の農村からアジヤやアフリカの村に拠点を移し
似たようなことが起きているとも聞きました。

最後に
鈴木京香さんと白石加代子さんへ

鈴木京香さんは仙台生まれだそうで
むき出しの東北弁による怒り・悪態
迫力がありました。
白石加代子さんのおかじも
これまた
すざましい迫真の演技でした。
必死で守り通してきたものが奪われて行く
怒り・悲しみ
おとりとの壮絶なバトルは実に見応えがありました。
お二人とも初めてでしたが
またお会いしたいと思います。

そして
長塚圭史さん演出の芝居
いつも驚くほど斬新です。
今年は、またもや意外
木下順二作『蛙昇天』を仙台で演出されるとか
関西公演があればいいのですが…。
今年も楽しみにしています。


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