『闇のうつつに我は我かは』

観劇記 あまご 
2015年4月1日
Ring-Bong(リンボン)第5回
小竹向原 
サイスタジオコモネスA劇場 
          作 :山谷典子(やまやのりこ)  
           演出:小笠原響 

                   
 今年は戦争が終わって70年目の年、私も戦争を知らない子供たちでしたが、あれからずいぶん月日が経ってしまいました。戦争ついて深く学ぶこともなく、悲惨な戦争映画や芝居は好きでなく、できれば避けて通りたいと思っていました。しかし、今の世の中の動きが戦前の1930年代の様子に、戦前の時代に復古しつつあるように感じ、店頭で見つけた半藤一利さんの「昭和史」を読み始めている私ですが、結構読まれているとか、同じような気持ちの人がたくさん居られるのですね。



 先日は東京演劇アンサンブルの「第三帝国の恐怖と貧困」、地元劇団どろによる同じくブレヒトの「第三帝国の恐怖と悲惨」を連続して見ました。芝居を見て、今の時代が戦前の雰囲気に戻って行くような、そんな気持ち、いっそう強く感じました。
あの時代の芸術家や知識人たちの苦しみを描いた芝居は沢山ありますが、今回の作品はなんと山谷典子(やまやのりこ)さん、文学座の若い俳優さんでもあるのですが、戦争を知らない、高度経済成長期に生まれた山谷さんが書かれ、自らも役者として舞台に立っている。これはちょっとした驚きでした。

 芝居のはねた後、出演された若井さんや蓮池さん、来月「フル・サークル」に出演される小山力也さん達のお話を聞いて、演劇に携わる人たちの時代に対する感性は実に鋭いと改めて思いました。

 舞台は蓮池さんが演じる演出家和田市郎、時代の波に逆らいながらも皆が食べるために、芝居の灯を消さないために、どちらともとらえることが出来るような芝居を作ろうとします。画家の恩田薫は国策の絵は描けないと酒と女に溺れる毎日、薫の妻さき(山谷典子)は皆を食べさせるに国策に沿った絵を描き続けます。さきの妹ひさ(若井なおみ)は純真な?軍国少女。厳しい時代にあって時代に流されながら逆らいながら生きた芸術家たちや知識人たち。その苦しみを現代にどうやって伝えて行くのか、さきは戦後、狂ったように魂の叫びともいえるような絵を描き、その作品は彼女の娘の陽子(大崎由利子)が館長である美術館に収められ、現在(美術館の一室)と過去(芸術家たちが住むアトリエ)が交差しながら舞台は展開して行きました。

 役者さん達も魅力的で、小笠原良知(りょうち)さんが演じる美術館に訪れた老人遠藤孝之は不思議な存在で最後はなるほど・・・うしろ姿にも存在感がありました。若井さんが演じた軍国少女はとても爽やかでした。

 芝居の展開としては少し詰め込み過ぎかなと思いましたが、初演ですから多分これから完成度の高い作品に仕上がって行くのではないかと思います。もっとたくさんの人たちに、そして東京だけでなく、地方へ、全国の人たちに見て欲しい芝居です。

劇場は90席ほどの
理想的な演劇空間


現代〜港外にあるつつじヶ丘美術館
  遠藤孝之(来館者) 小笠原良知
福田陽子(美術館の館長) 大崎由利子
松野洋介(美術館の学芸員) 辻猛
高橋翔子(美術館の職員) 大月ひろ美
昭和18年10月
昭和20年4月
昭和21年4月
遠藤孝之(学生) 田中宏樹
恩田薫(画家) 三輪学
恩田さき(馨の妻・画家) 山谷典子
河野豊(さきの兄、大学の先生) 高野絹也
河野ひさ(さきの妹・字学生) 若井なおみ
吉岡杏夢(人気モデル) 村松えり
和田市郎(演出家) 蓮池龍三

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