『20000ページ』 文学座4月アトリエの会

観劇記 あまご 
2015年4月19日 
 文学座アトリエ
          作:ルーカス・ベアフース 
          訳:松鵜功記 
          演出:中野志郎 

                   


あらすじ
 ある日、トニー(采澤 靖起 うねざわ やすゆき)はゴミを投げ入れる穴に何かを見つけそれを見に穴の下に降りる。そこへ上から本がたくさん詰まった段ボールがトニーの頭の上に落ちてきた。幸いにも怪我はなく、骨折も、脳に損傷もなかったが、なぜか精神科病棟に入院させられる。それを知った恋人リーザ(前東 美菜子 まえひがし みなこ)がことの真相を確かめに病院へ行く。 そこには第二次世界大戦の歴史書20000ページ分の知識をもったトニーがいた。落ちてきた本の中身がすべて知識として彼の脳に入っていたのだった…。文学座HPより

 記憶にインプットされた20000ページの本、その記憶を利用して一儲けを企む芸能マネージャ(高瀬 哲朗)、記憶の中身《歴史的事実》より記憶力という才能を、あらゆるものを商品化しょうとする現代社会への痛烈な皮肉を感じます。そして、精神科医(目黒 未奈)がトニーの歴史記憶をもっと現実に役立つもの=将来性が見込まれるIT関連の技術やそれを世界に売り込んで行くために必要となる語学、ちょっとした教養などに置き換えてみる実験を行い成功します。難しい情報技術や巧みな中国語を話すのですが表情は朧でロボトミー手術を受けたかのような人間に変わってしまいました。映画『カッコーの巣の上で』を思い出します。

 SFのような構成でしたけど、第二次世界大戦のスイスの知られざる歴史をベースにした現代劇、前半はとてもしんどくて、早いテンポの会話について行くのが精一杯でした。
 あの二つの大戦を中立国として非戦を貫いたスイスもナチスとのつながりがあったのか?。ナチスとのつながりが明らかになったのは1980年代になってから、2002年に歴史学者ジャン・フランソワ・ベルジュ率いる独立専門委員会がまとめた最終報告書が出されたそうです。
 映画サウンドオブミュージックではトラップ一家がナチスから逃れてスイスに亡命するというストリーでした。スイスはナチスに批判的と思っていましたから、これはちょっと驚きです。そんな訳ですから、スイスの作家の多くが自分の国に批判的なのも理解できます。はたして、今の日本はどうなのでしょうか・・・。
 
 突然明らかになった負の歴史、できる事なら曖昧に触れないようにするのが弱気者の心情かもしれません。過去の嫌な歴史は忘れ去り、今日・明日と先の見えない経済優先の現代社会に生きてゆく。一見楽そうに見えますが、映画監督の宮崎駿さんが『熱風』7月号で堀田善衛さんの言葉
     「歴史は前にある。未来は背中にある
 を引用されていましたように「歴史は忘れたり、すり替えたりしないで、たとえ悲惨な負の歴史であっても、正面から直視しなければ未来は開けて来ない」と改めて思いました。

 文学座のアトリエ公演は硬直した私の脳みそをかく乱させ、心臓をドキドキさせてくれます。

 最後に、森の小屋の膨大な本に囲まれ身体にキノコが生えてしまった外山誠二さん、女性歌手の増岡裕子さんテレビ司会者の松井工さん、活動家の後田真欧さん、しっかり脇が固まっていて文学座ならではのアンサンブルを感じました。
 このような現代劇、関西や神戸でも小さな劇場で観れるといいのですが・・・いつもそんな想いがアトリエを出た後に湧いてきます。


文学座2016カレンダーより

文学座のアトリエ


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