『観劇記 ローゼンクランツとギルデンスタ―ンは死んだ』 

観劇記 あまご 
2015年5月18日 
 
          作:トム・ストッパード   演出:鵜山仁
          下北沢OFF/OFF 

                   
 『ハムレット』の芝居にちょっとだけ出てくる
ハムレットの学友ローゼンクランツ(ロズ)とギルデンスターン(ギル)が
主役の芝居です。
本番のハムレットでは
登場するほとんどの人物が舞台で死んでゆくのに
二人の死は舞台に登場することなく
終幕でイギリスからの使者によって
その死が伝えられます。
「ご命令通り、ローゼンクランツ、ギルデンスターンは処刑いたしてございます。」

この最後のセリフが芝居のタイトル。

 
ロズ石橋徹郎     ギル浅野雅博         座長       
  
 死ぬと決まった二人の運命は?
コインゲームから始まりました。
ギルがコインを投げるとロズが「おもて」と叫ぶ
「おもて」、「おもて」、「おもて」いくら投げてもおもてが出て
やっとうらが出たところで
舞台は暗転し
オフィーリヤが逃げるように現われます。
ハムレットも出てきます。
しかし、それは映像です。
揺れるスクリーンに幻想的に映し出されるのです。
その後もハムレットの主だった人物はスクリーンにしか登場しません。
登場人物はロズとギズに加えて人形使いの3人だけです。
人形使いが座長を操り役者達を操ります。
ハムレットの父を殺し
ハムレットの母ガートルードを誘惑し
王位に就くクローディアスの策略を暗示する劇中劇は人形劇でした。
小さな劇場ならではの実に面白い発想です。
スクリーンといい
人形劇といい
『ハムレット』の世界が裏表逆となって展開する仕掛けに驚かされました。
コインのおもてが100回近くも出続けることは確率的にもあり得ないことですが
二人は疑問に思ってはいないようです。
そういえば坂手洋二の『屋根裏』も
コインのおもてが連続して出るという場面がありました
そこにはあらかじめ定められた運命があり
そこをどう生きるか
To be or not to be すら
越えてしまった不条理の世界なのでしょうか。
表があれば裏がある
定められた運命であれば逆らって生きてみたい。
主役でないもの達にもそれぞれの生き方がある。

思いたいのですが
それが逆説的な問いかけになっているのかもしれません。

 この芝居の作者はトム・ストッパーズ
私の本棚に彼が書いた『自由人登場』という作品を発見
内容は殆ど覚えていなくて
もしかしたら読んでなかつたかもしれませんが
彼の生い立ちが書かれていました。
驚くべき生い立ちでした。

 「ストッパードは、1937年、チエコスロヴァキヤで生まれた。父の姓はストラウスといい、一家は当時ナチスの手が迫っていたチェコを離れて、シンガーポールへ移住した。ところがここにも日本軍が進攻してきたので、父だけ残って、家族はインドへ避難した。父は結局、日本軍に捕えられて、死亡したという」 市民映画劇場2月例会「レイルウェイ 運命の旅路」と重なります。

ハムレットたちの屍を前にして
なにもかもありのままに伝えたい
このホレイショーの言葉を
今の政府の
歴史を直視しない国会の空芝居の背後に映し出して見たいものです。

 下北沢OFF・OFF
座席数80ぐらいの小さな劇場に若者が溢れていました。
私はテンポの速い台詞の掛け合いについて行くのがやっとですが
若い人たちは敏感に反応していました。
この芝居を観て
どんな想いにかられたのでしょうか。
ちょっと聞いて見たい想いです。



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