『観劇記 トロイラスとクレシダ』 

観劇記 あまご 
2015年8月15日 
西宮芸文中ホール 
          作:シェイクスピア・ 訳:小田島雄志・ 演出:鵜山仁
          世田谷パブリックシアター+文学座+兵庫県立芸術文化センター
 
                   


 愛と欲望、正義と裏切り、条理と不条理・・・見応えのある芝居でした。昨年はシェイクスピア生誕450年で文学座のシェイクスピア祭、『お気に召すまま』から始まって春のリーデイングは今年亡くなった加藤武さんの『ベニスの商人』、夏のシリーズは『リチャード二世』と『恋の骨折り損』、秋冬は残念ながら見られませんでしたけどシェイクスピア祭楽しめました。新国立では『テンペスト』、カクシンハンの『仁義なきタイタスアンドロニカス』と合わせて6作品の舞台に触れることが出来ました。そして2014年の収穫はシェイクスピア37作品を読み切ったことでした。
 『トロイラスとクレシダ』はめったに上演されることのない「問題作とか」、戯曲を読んだだけでは分かりにくく、クレシダの浮気の物語、ギリシャのいい加減な将軍たちと滅亡するトロイアの王家の物語と軽い印象を持っていたのですが、舞台は意外な展開でした。
 鵜山仁演出と島次郎の舞台美術、芳垣安洋&高良久美子のバンド演奏もよかった。そして、文学座の舞台で滅多に揃うことのない役者達22名と4人の客演者達、総勢26名、これだけの役者さんが登場するとは、驚くべき豪華な舞台でした。


トロイの王プライアムを演じた江守徹さん
滅びゆくものの美と尊厳を感じました。

トロイラスとクレシダの恋の取り持ち役パンダラスを演じた渡辺徹さん
最後はトロイラス(浦井健治)に周旋屋と罵られ
女衒の歌を歌いながら
呻きまわる姿に痛々しさを感じました。

 舞台の最初に登場した序詞役の小林勝也さん、「南部高速道路」「国民の映画」「ビッグフェラー」等外部出演が多く、久々の仲間たちに囲まれての舞台でしょうか、いずれの役ものびやかな感じでした。アキリーズ(アキレス)役の横田栄司さんも本家の舞台は久々なのでは、ギリシャ神話の英雄アキレスをコミカルに演じ、ギリシャ軍の戦争の大義名分のバカバカしさ、それでいて虚栄心たっぷり、冷酷さ・・・難しい役どころです。楽しめました。アキリーズのライバル、エイジャックス(多分、ギリシャの英雄アイアース)を演じた櫻井章善さん、蓑虫のような滑稽な衣装で ギリシャの英雄を演じ切る、斉藤志郎さんの道化サーサイティズが意外にシリヤスな役だけに面白い役割でした。ギリシャの知恵者ユリシーズ(英雄オデュセウス)を演じた今井朋彦さん、後にトロイの木馬を考案し、トロイを滅ぼし、故郷に帰る苦難な旅が物語となるほどの有名な人物ですが、シェイクスピアはあえて小悪な役を意地悪く与えたようで、英雄視しないところがギリシャ軍の無意味な戦争のありようを示しているのでしょうか。そして、もう一人のギリシャの将軍ダイアミディーズを演じた岡本健一さんの不気味な演技が光っていました。クレシダを誘惑する悪役ですが、人質のような立場にあるクレシダの不安な心を揺さぶり、手中に収める手口と表情は憎いほどうまい。
クレシダを演じたソニン
あばずれ女と思っていたのですが
戦争で犠牲になった女
戦争が引き起した条理と不条理の狭間の中で生きなければならぬ
心の動きを叫びを揺れを
なんと清らかに表現している・・
いい女優さんだな〜と思いました。


クレシダの心変わりの状況を
トロイラスはユリシリーズとともにじっと見ているのです。
一が一であって二でないとすれば、断じて
あれはあのひとではない。おお、理性は狂いじみている!


 あれはクレシダであってクレシダではない!

あれは真実のかけらか、愛情のおあまりが
腹いっぱいつめこんだ誓約の滓、屑、油じみた
食べのこしが、ダイアミディーズのものになったのだ


 そして、面白かったのは、この戦争の発端はトロイの王子パリス(浅野雅博)がギリシャの総指揮官アガメムノン(鍛冶直人)の弟スパルタ王メネレーアス(石橋徹郎)の妻ヘレン(松岡依都美)を奪い妻とした。ギリシャ連合軍とトロイの武将の最後の闘いの場面で二人が場外で戦うシーンを見たとき、ちょうど3ヶ月前、浅野雅博さんと石橋徹郎さんが競演した「ローゼンクランツとギルデンスターン」の舞台を思い出しました。
 莊田由紀さんはトロイの王子ヘクター(吉田栄作)の妻アンドロマキ、トロイ王の娘は吉野実沙さん、ギリシャの老将軍ネスタ―は鵜沢秀行さん、ギリシャの将軍パトロクロスは高橋克明さん、クレシダの父カルカス神官は廣田高志さん、トロイの将軍イーニーアスは若松泰弘さん、プライアムの息子ヘリナスは木津誠之さん、プライアムの私生児マーガレロンは神野崇さん、トロイラスの小姓は植田真介さん、クレシダと交換されたトロイの将軍アンティーナーは内藤裕志さん、ダイアミディーズの召使は宮澤和之さんでした。



 これだけ豪華なメンバーが揃うとは、世田谷パブリックシアターと文学座と兵庫県立芸術文化センターの共同企画、公的な機関がバックアップしてくれるとは嬉しいことです。
 当日はアフタートークがあって、そのせいかも知れませんが、芝居は見る方よりする方がずーと楽しい!と思いました。芝居の最中はとてもしんどいでしょうけど、楽が近づくにつれてどんどんうまくなっていって、打ち上げたその日は、すべてから解放されて陶酔状態に、普通の仕事人ではそんな喜びはめったにあじあうことはできません。芝居を見終ってそんな羨ましい気持ちになりました。それだけ皆さんが生き生きと演じられたということです。

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