『再びこの地を踏まず』 

観劇記 あまご 
2015年11月29日 
 
          作:マキノノゾミ 演出:西川信廣 文学座公演 ピッコロシアター 

                   
 お茶目な野口英生物語
あたたかい芝居で堪能しました。
野口英世と言えば真面目で勤勉でとてもえらい人
それ故に固いイメージがありましたが
芝居の冒頭からそのイメージが吹き飛ばされました

幼友達からは借金しまくり
そのお金が研究に使われているのではなく
酒と女に

渡米費用のために
華族のお嬢さんと結婚の約束までして借りたお金まで
飲んでしまった野口英世
見かねた恩師が家財を売り金貸しから借金して
渡米費用を出してくれました。

恩師・血脇守之助曰く
5割の誠と3割の茶目そして2割の狂気」が
あるからと
たしかこんなセリフでした。
後日台本を読むと
「人間というものはその半分が真味(まこと)であったらそれでいいのだ
あいつはだらしのない出鱈目な所もずいぶんあるが
しかし、学徒の本分を守ってよく学ぶ男だ。
その一点においてだれも寄せ付けぬ。
そういう天与の才を持っている。
それが野口という人間の真味だ。
だからあいつはあれでいいのだ。
覚えておきたまえ」
世の中というのは五分の真味に二分侠気、
あとの三分は茶目で暮らせすものだ」

狂気でなく、侠気(弱気者を助ける男気
でした
野口英世は恩人をだまし
無心したように思われがちですが
貸していた方はそれでも野口の才能に惚れていたんです。

幼馴染の八子さんのお孫さんが言っておられたと
パンフレットに西川さんが書いてられました。
芝居の中でも八子弥寿平さんは
野口にお金を貸す時とても嬉しそうでした。

一幕はそんなむちゃくちゃな日本での若き英世の放蕩生活

そして二幕は
渡米しロックフェラー医学研究所に勤務し
酒と女との放蕩生活は相変わらずだけれど
着々と研究成果はあがり
なんどかノーベル賞候補に
舞台は
カフェーで知り合ったメリーとの結婚生活
16年にわたる謎の二人の暮らしが繰り広げられます。

ほとんどブラックボックスであったこの生活
そこにマキノノゾミさんの劇作の余地があったと・・・

そして
そこにはマキノノゾミさんの優しい眼がありました

研究の成果だけを追っているのではないんだ!
これまでお世話になった人の恩返しと思って研究しているんだと
結婚記念日にマリーに送ったプレゼント
思いがけない優しさに涙する観客

そして結婚16年目のある日
病に侵され静養中の身でありながら
マリーや秘書の反対を圧押し切って西アフリカに・・・
しかし
研究中に黄熱病に罹り殉職
ー 暗転 −

劇場には高校生が20〜30人ぐらい見に来ていました。
女生徒のひとりが
感激しました!」と先生に
その生徒と眼があって
私もうなづきました

芝居がみれてとてもよかった・・・と
帰り路で私たち3人もうなずきました。



野口英世を演じた今井朋彦さん
ひょうひょうとした演技がとてもよかったです
トロイラスとクレシダでは渋い役ユリシーズ
その違いにちょっと驚きましたけど・・・

メリー役の松岡依都美さんもトロイラスとクレシダではヘレンの役
戦の原因となった王妃でした
英世の初恋の人・山内ヨネ子は藤崎あかねさん
ヨネ子の下宿先の女将さんは富沢亜古さん
さすがです
英世の愛人?秘書は千田美智子さん
血脇夫人は永川友里さん

脇を固める文学座女優陣

そしてお人柄の良さそうな幼馴染・八子弥寿平は鈴木弘秋さん
恩師・血脇守之助は瀬戸口郁さん
血脇の弟子は佐川和正さんと後藤真欧さん
同期の研究員は若松泰弘さん

文学座の男優人もしっとりと

素晴らしいアンサンブルでした!
 

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