『野鴨 観劇記』 

観劇記 あまご 
2016年4月17日 
文学座 アトリエ 
 
          作:へンリック・イプセン 訳:原千代海 演出:稲葉賀恵 

                   


東京観劇ツアー最終公演は文学座のアトリエ公演です。
4年前の東京観劇ツアーで
若手演出家:稲葉賀恵さんの「十字軍」を見ました
とても衝撃的な舞台でした
四方を観客席に囲まれたフラットな舞台に
観客席から突如飛び込んでくる役者さん
銃口を観客席にむけ
戸惑う私たち観客
観客席と舞台が一体となり
分けがわからぬまま
頭の中は混乱のまま展開する
不思議な舞台でした
よくわからなかったけど とてもよかった!
芝居を見終ってしばらくたってから
こんな感想がツアーのメンバーから聞こえてきました
さて
野鴨の舞台はどう展開するのでしょうか
文学座のアトリエという小さな空間で
稲葉さんの演出に期待が高まります。

「野鴨」を舞台で見るのは初めてです
戯曲では昔読んだことがありましたが・・・
とても難解
そんな印象です。

アトリエに入ると
三方の観客席に囲まれた舞台
天上から灯りがぶら下がり
舞台中央には水たまりが
この水たまりがとても印象的でした
天上からポトリポトリと水滴が落ちてくるのです
撃たれた野鴨が沈んでいった湖を表しているのでしょうか
それとも心を映す水面なのか
舞台の奥に野鴨達が飼われている庭に続く階段が見えます
(写真は第二幕のヤンマール一家のアトリエ)
一幕の舞台も奥が黒いカーテンで仕切られていましたが
一幕と同じ舞台でした


文学座2017カレンダーより

あらすじは文学座HPより

豪商ヴェルレの息子グレーゲルスは
親友ヤルマールとの久々の再会で
父ヴェルレの世話でかつてヴェルレ家の使用人だったギーナが
ヤルマールの妻になっていたことを知り
ある疑惑を芽生えさせる。
グレーゲルスとヤルマールの父親同志は
かつて工場の共同経営をしていたが
ある事件によってヤルマールの父エクダルは社会的敗残者となり
息子ヤルマールはグレーゲルスの父ヴェルレの援助で家庭を持つことができたらしい。
しかし
そのささやかな家庭の幸福な風景は
嘘で塗り固められた土台の上に立っていた。友に真実を告げて
真の幸福な家庭を手に入れてほしいと願うグレーゲルスだったが…。

真実を知る
重たいテーマだと思いました
知っていて納得するのか
あとから知って納得するか

撃たれた野鴨は沼の底深く沈む
水草とか底にある何かに噛みついて決して上にはのぼってこない
ところが
猟犬が潜り込んで野鴨を引き上げてきた


真実を知らせたグレーゲルスは猟犬だったのか
正義は必ずしも正しくない
医師レニングの常備薬は『生きるための嘘だ』という
イプセンの「人民の敵」でストックマン博士の
多数が正しいことはない
という言葉と重なります。
イプセンは正義とか真実とか簡単に言ってしまっていることが
問題なのだと訴えているのでしょうか

やはりこの芝居も単なる家庭劇ではなさそうです

私にとってはやはり難しい芝居でしたが
アトリエで生き生きと演じられている文学座の皆さん
見応えのある芝居でした。

豪商ベェルレの坂口芳貞さんの意外なクールさと
エクダル老人の小林勝也さんの虚脱な演技が対極にあって緊張
エクダルの息子ヤルマールの清水明彦さんと
ヴェルレの息子グレーゲルスを演じた中村彰男さんとの関係が
分かるにつれて事態が急速に変化して行く緊張感

セルビー夫人の奥山美代子さんとヤルマールの妻を演じた名越志保さん
華やかさと地味さの対極のスタイルで女性の強かさ?
ともすれば暗い雰囲気になりそうなこの芝居の中で
明るい光と灯のような存在でした。

エクダル家の階下に住む住人
モルビィク元神学生・高瀬哲郎さんとレリング医師大原康裕さんも
強い存在感があって
さすが文学座ならではのアンサンブルでした。

ヤルマールの娘ヘドヴィクを演じた内堀律子さん
両親の愛情をたっぷりと幸せな娘から
純粋ゆえに自らの命を絶ってしまう
可憐な姿に心打たれました。



イプセンの芝居でこれまで観た作品
・人形の家
・幽霊
・ガブリエル・ボルクマン
・棟梁ソルネス
・ヘッダー・ガブラー
・海の夫人

今回の野鴨で7作目となりました。
いずれも奥行きの深い感動的な芝居でした。
そういえば学生時代
「ペールギュント」が大好きな音楽の先生がいて
この音楽劇
「冒険と色物語」と先生はおっしゃってましたが・・・
その影響で
なんどもレコードを聴きました。
いつかイプセンと作曲家グリークの生まれたノルウェーに行き
ノルウェー国立劇場で「ペールギュント」を見聞きするのが長年の夢です。
なかなか夢はかないません

余談ですが
息子夫婦からプレゼントされたヤッケを忘れ
電話で問いあわせたら椅子の下に・・・
あとで送って頂きました

ありがとうございました

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