『淑女はここにいる』 観劇記  恵比寿・エコー劇場
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観劇記 あまご 
2016年5月13日 
 
   作・演出: 田村孝裕  

テアトルエコーの60周年記念作品
1976年生まれの若き劇作家による作・演出
はたしてどんな芝居なのか
ワクワクします
                   


チラシの女性たちが淑女?

幕が開くと
崩れた民家のリビングのような一室に
初老の上品なおば様がうたた寝をしています。
読みかけの本を手にして・・

芝居が進んで行くと分かるのですが
ここは都内の河川敷に建てられたバラック住宅
世を捨てた人たち?
社会という組織からエスケープした人達が住んでいるのです。
上のチラシに映っている4人はまさに浮浪者のようですが
芝居ではそんなことはありません
皆さんお洒落で
ここから巣立って社会復帰した
若い女の子・七海(おもたかな:下の写真右端))が届けてくれた
化粧品で女を磨いています

化粧パックの淑女たち

ここは今は亡きボスと呼ばれる男(田村三郎)が建てた小屋
元々は建設関係の会社に勤めていて
会社の偽装に嫌気がして
誰にも頼らない生き方をしようと小屋をたてたのだとか
建築家だけに造りはしっかりしています
七海の恋人陣内(池田裕幸)は不動産販売の営業をしていて
この小屋の造作について感心します。
床板の下や壁の裏にはダンボールが敷き詰められていて
防音・温室効果が抜群
それに
冷蔵庫や洗濯機もある
電気は?
屋根にはソーラーパネルと
ガソリンスタンドから貰ってきたバッテリーが電源

三人の淑女たちの職業は?
左のデルコ(岡のりこ)は8時に起きて夜10時に寝る
ほぼ人並みの生活をする日雇いバイト
ガソリンスタンドをまわりバッテリーを集める営業もこなしている。
中央のリエ(重田千穂子)と右のコップ(安達忍)は空き缶拾い
夕方から夜中の2時近くまで働きます。
ここでの生活には厳しい掟があり
他人の縄張りを侵さない事・盗みをしないこと

テリトリーの調整はデルコがしているようです。
三人はここに辿り着く前は
男にだまされたり借金に追いまくられて
ボスの住むこの小屋に辿り着いたのです。
ボスは一旦は追い返すのですが

空き缶をぶら下げて・・・再びやって来た三人を見て
この世界に生きるには
テリトリーを侵さず
浮浪者のルールをしっかり守ること
このことを条件に
ここに住むことを認めます。

近くにはボスが皆のために建てた小屋が幾つかあって
哲学的な語り口のボロ衣装のタケシタ(川本克彦)
後程
拾ったお金で値札のついたスーツをきて現われ
観客は大爆笑
ハゲ(松原政義)やペケ(加藤拓二)達ホームレスが住んでいます。
彼らは世間から全く孤立しているわけではなく
ときどきNPOのスタッフ篠塚(落合弘治)がやって来て相談に乗ります。
七海もここから抜け出した一人でした。
淑女たちはボスとの約束通り各人の自主性を重んじます
社会に甘えることなく己には厳しく
ところで
ここにはもう一人の淑女がいました。
舞台の初めに登場する
うたた寝しているネエサン(小宮和枝)と呼ばれる初老の淑女です。
彼女はいつからここにいるのか分かりません
三人の淑女はネエサンはもしかしたら
ボスの嫁さんではないかと想像しています。

芝居の始まりは
ネエサンがうたた寝している時に
ここに若い男:良太(徳永創士)が忍び込んできます。

会社を首になり宿舎を追い出され
財布を落して
一週間なにも食べていない
そんな良太にネエサンは優しく食べ物を出してやります。
お礼に良太が拾ってきたものは
鉄の空き缶
リサイクル業者の茅野(田中秀樹)は
鉄の空き缶はアルミ缶の十分の一だと諭します
茅野は日毎のレートで空き缶を買い取り
若干ピンハネしているのですが
淑女たちは知っています
お互い生きてゆくためには仕方がないと
空き缶のリサイクルは月に10万程になるという
食べものは近くのお店のあまりものをもらって来たり
どうしても必要なものは現金で
四人の淑女は毎日銭湯に通っています。

彼女たちは毎日懸命に生き生きと暮しています
それは
都会の中で農耕を営んだり狩りをするような生活
なんだか人間の自然の姿ようで
生活とは本来はこのようなものでは?

組織的な社会でロボットのように働いている
明治以降の日本の社会
西洋も産業革命以前はもっと人間らしかったといいますが
人間らしさとは?
芝居を観ながら考えます

ところで
三人の淑女たちの心配は
ネエサンのボケが進行しつつあることです
物忘れが激しくなり買い物の帰り道を迷ったりするので
NPOの篠塚に相談します
篠塚は入院することを勧めます
以前
淑女たちのボスが同じような状態になり
病院を拒んで亡くなってしまったことを
とても後悔していたのです。

この辺りになると
もう他人事ではなくなります
私たちの周りは一部の裕福な人を除けば
老後がとても不安です
お金持ちも含めて
それは社会から見捨てられることが不安?
淑女たちはとうの昔から現代社会とは決別している筈ですが
不安?寂しさ?

貧しくとも笑いに溢れながら生きて
できればしがらみのない世界で生きてゆきたい

淑女たちは賭けます
ネエサンが買い物に出かけて30分以上たっても帰ってこなかった
病院に連れて行こう
・・・
ところがみんなの心配をよそに
ネエサンは笑顔で無事帰って来ます。
ほっとした淑女たち

舞台は最初の場面にもどり
ネエサンは読書中
読んでいる本は?
「淑女はここにいる」
皆が読んでいた話題の本だったのです。
ふたたび
ネエサンは居眠りをし始め
幕が降りました
場内はとても暖かい拍手に包まれました

いい芝居だったなあ〜
一人で観たのがとても惜しまれる気持でした

とりとめなく思いつくまま
あらすじを書いてしまいましたが
正確ではありません
ながれは緩急あり
時も入れ替わり
なんといっても
テアトロエコー女優陣の呼吸がピッタリでした。
亡くなったボスも時折登場し
存在していないのに存在感があって
タケシタの真面目さが不真面目で
さすがコメディのテアトロエコーです

若い人たちもたくさん見に来ていましたね
ちょっとうらやましく思いました。

また一人若い劇作家:田村孝裕の作品に出会えたことも
おおきな収穫でした。
 

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