『常陸坊海尊 観劇記』 
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観劇記 あまご 
2016年12月22日 
 俳優座稽古場5F
          作:秋元松代 演出・美術:安川修一 劇団俳優座公演

                   


久々の秋元松代作品
といってもそんなにみてはいませんが
74/6 「きぬという道ずれ」 民藝: 宇野重吉・樫山ふみえ
74/6 「ことづけ」 民藝:小沢弘治・岸野小百合
75/7 「アデオス号の歌」 民藝:北林谷栄・草間靖子
76/5 「七人みさき」 民藝:北林谷栄・奈良岡朋子
 96/6 「村岡伊平冶伝」 俳優座:てらそま昌紀・田野聖子

ずいぶん昔ですから記憶が薄れています
秋元さんの代表作と言われる
「常陸坊海尊」
手元に本がありました
いつか見たかったのでしょう



あらすじは劇団のHPから

東京からの学童疎開で東北の地へやってきた啓太と豊は
ある日村から逃げ出した先で謎の美少女・雪乃と
その母であるイタコのおばばと出会う。
空襲により二人が孤児になってしまった夜。
雪乃から「困ったときは“かいそんさま”と呼べばええ」と教えられ、
啓太は次第に魅せられ、傾倒していく。
やがて終戦を迎え、
啓太と豊は里親に引き取られることとなるが
その当日啓太は神がかりのごとく姿を消してしまう。


常陸坊海尊とは
平安末期の伝説的人物。荒尊とも。園城寺僧,また比叡山僧といわれる。
源義経旧来の家臣だが,文治5(1189)年の衣川合戦に参戦せず失踪する。
東北地方中心に生存説が多い。
仙人となり
あるいは人魚の肉などを食して不老長寿となり
,源平合戦や義経の物語を語るという。
出典:朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版

秋元松代さんのあとがきによれば
自分は常陸坊海尊の成れの果てであると名乗る琵琶法師が
東北の町や村を流浪しながら
義経の武勇を語り
自分はその義経を裏切って逃亡した卑怯者であると
懺悔物語にしたという話は
義経の戦死から
それほど遠くない時からだったらしいと言われている
そして江戸時代の末頃まで
海尊と名乗る琵琶法師は生き続けていたらしい
中には一ヵ所に定住した海尊もあるし
生まれ変わりだと称した海尊もいたらしい
時代と共に変貌し修飾されたもののようである
私がこの海尊伝説に関心を持ったのは
彼と民衆との結びつきについてであった

さらに初版本のあとがきでは
こうした仙人実在伝説は
東北地方に限らず
日本のいたるところに存在し語り継がれてきたのである
巡遊する和泉式部、俊寛と有王丸、曽我兄弟の母と娘たちなど
流浪の「貴人」たちは民衆の家を訪ね歩いたらしい
それを支えたものは何かといえば
素朴な民衆の
生活の喘ぎと
寄る辺ない魂の哀しみと
日本人の優しさと浪漫性ではないだろうか
わたしはそのことに思い至ると
不思議なほど心があたためられ安らぐのだった


劇中に出てくるおばば(早野ゆかり)は
750年間おのれが罪に涙しながら彷徨った海尊と出合い
子供を授かります
美しい娘 雪乃はおばばの孫
おばばはイタコです
日本は戦争に負けると占ったおばばは追い払われてしまいます
やがて
日本は敗戦
学童疎開していた少年たちは東京大空種で家も家族も失い
農家や漁師や製材所の親方の所に
労働力として引き取られることになります
豊・正男・勇一たちは泣きながら
かいそんさま!
かいそんさま!
かいそんさま!

第二の海尊 闇屋風の身なりに進駐軍用の半長靴をはいて胸に琵琶
さてこのたびの合戦は
進め一億火の玉となりもうしたにもかかわらず
あげなく負け戦とは是非もなす
みなみの島々支那満州さうち渡る軍勢も
武勇つたなぐ討死総崩れ
さるほどにこの海尊は
義経公を裏切り奉り
寄る辺なき女だちやわらしだちを見限りて
戦場をば逃げ出し申すた卑怯者でございます
・・・
身の懺悔をばいたすために
かような村々町々をさ迷い歩いて七百五十年
思えば思えばこの海尊の罪のおそろしさを
なにとぞ聞いてくだされえ
琵琶をかきならす音ともに二幕の幕が降りる

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終戦から16年たった昭和36年の秋
農家に労働力として預けられた後
親戚に引き取られて東京に
小さな会社のサラリーマンとなった豊は
啓太を捜して本州の最果ての地にある神社を訪れる
古くて由緒ある羽黒山の末寺
そこには下男として働く啓太がいた
宮司補の光秀とともに
二人は美しく成長した雪乃に憑りつかれていた
光秀は雪乃のことを
色、声、香、味、触、5欲5毒の頭首 魔性の女だと
雪乃の魅力から逃れるために冬の海峡を渡り密航すると豊に語る

知らぬ間に
豊も雪乃の魔性に惹かれていた
乳児を抱いた雪乃が現われると
豊は魅入られ、我を忘れ、渡り廊下の足元に手をさし伸ばす
雪乃、その手を踏む
交互に踏みつけながら唄う

みっつ咲いても、桜こは桜こ----
よっつ咲いても、桜こは桜こ----

豊 虚脱したように雪乃を見上げている

かいそんさまあ!
かいそんさまあ!
啓太は地面を転げまわりながら、なお、海尊の名を叫ぶ

僅かな時が経過して
第三の海尊 着古した背広姿の初老の男が琵琶を抱いて現れる
これは都より遥る遥る下ってまいった
常陸坊海尊が成れの果てでございます

第三の海尊つくづく啓太をみて
あんた、もすかしたら、わしとおなじく海尊法師でねだべか
すくっとたってみなせえ

知らぬ間に啓太の胸に琵琶が
啓太の琵琶の音が響きわたる
海尊 まことええ音色じゃのう       
啓太 おらが海尊とはのう 知らねがったす

第三の海尊 あなたを待っておる人はたあんとおるじゃ
残りのう、罪をつぐのう心をば失いなさるなよ
ばら、あんたは南の方さ行ぐがええす
わしは北の方さ旅にいごう
海尊殿息災堅固でのう

第三の海尊・第四の海尊背中合わせに方向を定め
琵琶をうちながらしずかに歩き出す

かようにさすらい歩いて750年
思えば思えば
この海尊が罪のおそろしさを
なにとぞ聞いてくだされえ
--- 幕---

 
おばば:     早野ゆかり            
雪乃:      工藤文香             
登仙坊 :    村上博              
先生・男1 :川井康弘               
寿屋・男2 :千賀功嗣               
安田啓太 :森山智寛               
正男 :深堀啓太朗                
伊藤豊:海老名翔太               
勇一:深津健介                 
役場・第三の海尊 :伊東達広         
親方・若い男2:小田伸泰           
あっぱ :島美布由                
だんな・若い男1 ;八柳豪           
第一の海尊・宮司補秀光 :野々山貴之  
第二の海尊 :石井伸一            
虎御前・女ガイド :小澤英恵         
少将・若い巫女 :森根三和         



2016年俳優座の最後の芝居
不思議な暖かさを感じました
いつまでも語り継がれて行く物語とはこういうものなのでしょうね
今、私が、何を語りついで行くのか
改めて考えさせられました
こうした民話のような物語に人々の暮らしを守る魂があると・・
今の日本を見ていると
逃げ出したくなりますが
歴史を振り返ること
人は、男かな、自分ですが、とても脆くて弱いと思います
秋元さんが書かれたように
寄る辺ない魂の哀しみのなかに優しさと浪漫を見つければ
それが生きてゆく勇気に繋がると思いました



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