『観劇記』 
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観劇記 あまご 
2017年4月14日 
 
        「北へんろ」 4/14 シアターχ
劇団俳優座 作/堀江安夫 演出/眞鍋卓嗣
出演/川口敦子、武正忠明、児玉泰次、早野ゆかり、加藤佳男、ほか


                   
 岩手県の海辺の旅館「清和館」。女主人・須藤いわね(川口敦子)と夫・清介(武正忠明)、宿泊者たちが陽気に酒を酌み交わしている。東日本大震災から3年後、周囲は津波にのまれたのになぜかこの旅館は残ったらしい。そこへ、神戸からずっと被災地を北に歩いてきたという遍路姿の男と、海辺で倒れて助けられた女性が、泊り客に加わり、物語が回り始める。
新しい宿泊客がやってきた時の迎える側の一瞬の間からくる違和感、どこかすれ違う会話。何か奇妙でミステリアスな雰囲気に観る者は引き込まれる。


パンフレット 稽古場写真

 果たして、この人々は生きているのか死んでいるのか。二幕ではそれぞれの過去が明かされる。宿の主人夫婦は、戦死した息子の帰りを待ち続けている。神戸から来た遍路の男は、阪神大震災で妻を亡くし、生き残った一人娘を男手一つで育て、その娘が岩手に嫁ぎ孫ともども津波で亡くなった。さらに、福島県川内村で牛飼いをしていた男。不倫デート中に津波に遭遇した人妻。福島で教師をしていた女性。家族を津波で失った10歳の少女…。
「清和館」は死者の魂の拠り所。後悔、怒り、執着といったこの世の未練に囚われた魂の拠り所であり、死者と生者が出会う場所でもある。戦争、震災、原発事故、不条理な死をとげた者たちの無念の魂が呼び寄せられ、やがて旅立って行く。劇中、戦死した息子を待ち続け妄執と化した母の霊魂に、やっと現れた息子が「死んでまで魂が自由でないとしたら、死者の特権はどこにある?」と語る。
ラスト、少女の歌う民謡の澄んだ歌声は、海に向かって真っすぐ力強く響いて、解き放たれた魂にも届くかのように聞こえた。
東日本大震災から6年、阪神大震災から22年、いつのまにか風化しつつある記憶。私自身も劇空間の中で、お遍路として神戸から東北まで巡り、死者の言葉に耳を傾ける。そして、先の戦争の悲惨に改めて思いを馳せる。記憶し続けること、それが「鎮魂」に繋がるならば、繰り返し繰り返し上演されることを願う。
いわねを演じた川口敦子さんの凛としたたたずまいが素晴らしい。
          
記 AH
 

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