『送り火』 
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観劇記 あまご 
2017年4月14日 
 
          作: ナガイヒデミ 演出:兒玉庸策  劇団民藝

                   
時・ところ
八月十六日お盆の最後の日の夕刻。
山あいの集落。
中心を流れる谷川に沿って十数軒の家が並ぶ、その一番奥の家の中。

ものがたり
「七〇年もたった気がせんよ」。
ここ数年吉沢照は自分の身の振り方を考えてきた。
身体的にも弱ってきているし
近くに親しい人はいるのだが他人の世話にはなりたくない。
戦後
保育園の先生になった照は
子供たちに童話をよく読みきかせた。
山あいに閉じこめられていた照はどこかよその国に行く夢をずうっとみていたのだろうか。
「アリスは不思議の国に。
ハイジはアルプスの山を下りて町に。
ウェンディはネバーランドに。
ジョバンニは銀河鉄道の旅に」
……どっか遠くへ。
ほじゃけどみーんな帰ってくる。 
                 民藝の仲間400号より



四国の山奥の旧家の分家で70年以上
家を守ってきた照(日色ともゑ)は永らく一人暮らしを続けてきたが
近ごろは物忘れもひどくなり、老いを自覚し
懐かしき家具も屋敷も整理し
1冊の思い出の本を抱いて
ケアハウスへの入居を決意する。
舞台は
入所前の夕刻から眠りにつく夜半までの短い物語。
本家の嫁吉沢光恵(船坂博子)や幼馴染の長尾泰子(仙北谷和子)
泰子の夫慶太達(安田正利)が次々と訪れて
その会話の中から
照を中心とした一家の歴史が明らかにされてゆく。
一家の苦しみは
兄が徴兵を逃れるため泰子の妹とともに村を出でしまったことから始まる。
長男亡き後の一家を継ぐために
父は照に婿養子をとることを勧めたのだが
兄のために非国民の一家となじられ結婚もままならなかつた。
実は、照が心を寄せていたのは
泰子の夫慶太だったのだ。
そうした事情を知っている泰子は
圭介が現われると、玄関から静かに去って行った。



独り身を貫いた照は
いまだに慶太を心の奥深く愛しているように思われた。
晃は戦後長らく保母として働き
子供たちに童話を読み聞かせることを生きがいとしていた。
晃はどこか別の世界に入って見たかった
忍び寄る老いとは別の世界に。
現実と幻の世界が入り交り
夜中にかまどをたくこともあった。
やがて
照が焚く送り火に誘われたかのように
亡き兄吉沢圭介(塩田泰久)が階段から降りてくる。



そして
時の流れがあの時に戻り
二人の懐かしい会話が始まった。
晃は圭介のために食事を作り
美味しそうに食べる圭介を眺めながらほほ笑む照の姿に涙が流れる。
一人の青年を死に追いやった戦争
家族や村の人びとを憎しみに代えた戦争
70年経った今もその悲しみは消えない。



晃が最後まで手元に残した本
「ナルニア国物語」の「カスピアン王子のつのぶえ」を
昔のように圭介に読んでくれと迫る。
晃は昔の愛らしい妹に戻り
懐かしい思い出の世界に・・・
やがて
ひと時の思い出は送り火となって揺らぎ〜揺らぎ
舞台の上方に静かに消えていった。

東京観劇旅行初日のソアレです
終演後
制作の方に案内されて楽屋に
今日は初日乾杯!
日色ともゑさんに久々にご挨拶
作者のナガイヒデミさんにもお会いできました
今日のマチネは俳優座の「北へんろ」
二つの作品とも
「魂」の芝居
戦争や災害が風化しないよう
絶えず見つめ続けなければと思いました
写真はパンフレットより
 

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