『恋のむだ骨 観劇記』 
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観劇記 あまご 
2017年6月11日 
 
          原作:シェイクスピア 脚本:奥泉光 演出:江戸馨 
              東京シェイクスピアカンパニー 下北沢「劇」小劇場 

                   
シェイクスピアの原作をもとに
ちょっと違った観点から描いた芝居
芥川賞作家の奥泉光氏はこの芝居の他
シェイクスピアの悲劇を基にした地獄シリーズ三篇
「リヤの三人組娘」「マクベス裁判」「無限遠点(生きていたロミオとジュリエット)」
などがあるそうです

私は今回の作品が初めて
とても楽しく観ることができました
原作は手元にある本の書き込みでは
2回ほど読んでいるようですが
記憶が曖昧です
3年前文学座のアトリエでシェイクスピア生誕450周年記念の
シェイクスピア・リーデイングが最近ですから
その時の記憶ぐらいしか残っていません
フランスの王女たちの一行がナバール王国にやって来て
アキテーヌの領土問題のやり取りの後
王女一行とナバール国王をはじめとする貴族たちの恋の物語
アキテーヌ有名な吊橋がありますから
アキテーヌはスペイン(当時はナバール)に隣接した
フランス南西部地方です



原作を読み直してみました
やはりすこし違います
恋するカップルも少なめで
村人たちの劇中劇はないのですね
領土をめぐる争点と駆け引きが
奥泉版は明確でした
フランス王女(川久保州子)が病床の国王の名代として
二人の侍女
ロゼライン(森由香)とキャサリン(藤井由樹)を伴って
(原作では三人の侍女)
ナバールにやって来たのは
アキテーヌに宝石の鉱脈があることを知って
取り返しに来たのでした

一方
ナバール王(大久保洋太郎)はナバールの歴史を研究するために
友人である二人の貴族(原作では三人)
ビローン(かなやたけゆき)とデュメーン(茂木泰徳)とともに
3年間学問に専念しその間は女性とも合わない誓いをたてます
研究の目的はナバール国の創始者メギス王の生誕の地?を探すこと
芝居の幕開けに
メギス王(真延心得)とメギス王妃(笹本志穂)が登場します
原作ではメギス王は出て来ません
そして
ビローンは偽物のメギス王の石碑を作らせ
少年モス(笹本志穂)から受け取り
アキテーヌの警察署長コスタード(真延心得)に命じて
アキテーヌのタヌキ山に埋めさせます
コスタードは原作の警使ダルと田舎者のコスタードを兼ねており
タヌキ山に一人で住んでいます
原作では
モスはふう変わり名なスペイン人アーマードの小姓ですが
アーマードは登場しません
従って
村の神父や教師も登場いませんから
村人たちによる劇中劇もありません
登場人物達もテーマもすっきりしています

一方
フランス側もアキテーヌの領土権を主張するために
フランス貴族のボイエットがこれまた密かに
たぬきが丘に石碑を埋めます

両者が出会った野外の接待場
(女性を場内に入れられないので)
たちまち男性陣は一目ぼれ
女性陣もまんざらででなさそう
かくして密かに書いた恋文が次々と発覚し
あの誓いは???どうなるの???
そして
出てきた二つの石碑は両方とも偽物であることが判明
領土問題はさておいて
3組のカップルはめでたしめでたしの
ハッピーエンドとなりました

芝居に出てくるナバール王はファーデナンドですが
白水Uブックスの「恋の骨折り損」の解説では
ナバール王アンリがフランス王アンリ4世として即位したと書かれています
そして
現実には劇のような王と王女の一目ぼれではなく
離婚話とアキテーヌをめぐ領土争うに終始したと・・・
56人の愛人をもち
惚れ性のアンリに相応しい話に作り変えることにより
シエイクスピアはこれを喜劇に仕立てたと
解説の野崎睦美さんが書かれています

「恋の骨折り損」はめったに上演されることはないそうですが
村人たちとの会話や劇中劇を含めて
機会があれば見てみたいと思います
ロシアで見たフェメンコ劇場の「夏の夜の夢」を観た
影響もあるかもしれませんが
本来の筋立てとは離れた庶民の登場も
道化や小姓たちの会話と同様
シェイクスピア劇の魅力だと思いました

道化のコスタードを演じた真延さんやモスを演じた笹本さん
良かったです
劇場は下北沢の「劇」小劇場
座席数130席
理想的な演劇空間です
このような小さな空間で役者さんを身近に見ながら
芝居を楽しめる
なかなか関西では味得ません
東京シエイクスピアカンパニー
またの出会いを楽しみにしています

 

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