『その人を知らず』  
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観劇記 あまご 
2017年7月2日 
東池袋・あうるすぽっと 
          作:三好十郎 演出:鵜山仁  
             新劇交流プロジェクト公演
                東演・青年座・民藝・文化座・文学座

                   


新劇5劇団による合同公演があるのを知ったのは
昨年9月の『横濱短篇ホテル』の例会公演の時
青年座の森さんから
三好十郎作品の合同公演があると・・・
これは凄いことになるなと思いました

三好十郎と言えば
私がまだ学生だった頃
文化座の佐々木愛さん主演の『美しい人』
そして何年後かに愛さんの母上鈴木光枝さん主演の『おりき』
そうとう昔なのでぼんやりとしか覚えていませんが
お二人の最後の場面の立ち姿が
強烈に 今でも鮮明に覚えています
そして
民藝の滝沢修さんの『炎の人』1977年
1990年の再演を見て
それから22年経ちました
・・・・
2012年に長塚圭史演出による
『浮標(ぶい)』
休憩2回
上演時間は4時間にも及ぶ大作ですが
終始緊張感に溢れ
実に見ごたえのある芝居でした。
『浮標(ぶい)』という作品は知らなかったのですが
この年
長塚圭史演出による『ガラスの動物園』を観て感動し
『南部高速道路』をみて感動し
長塚圭史という演出家に惹かれて観たのが『浮標(ぶい)』でした。
ここで
三好十郎という作家を思いだし
その不思議な魅力に憑りつかれてしまいました。

関西にいると三好十郎作品は殆ど上演されません
私が再度三好十郎作品と出会ったのは
それから3年後の2015年
北九州芸術劇場での文化座による
『獅子』でした
たまたま九州に橋の調査で長期滞在していたので
演劇鑑賞会の繋がりでみることができたのです

そんなわけで
これまでみた三好十郎作品は今回の
『その人を知らず』を含めて6本だけ
三好十郎の戦後三部作というのは
『その人を知らず』 『廃墟』 『胎内』
『廃墟』と『胎内』は
戯曲の勉強会で読んだけですが
濃厚な
魂の叫びともいえる作品でした


「廃墟」 劇団文化座+劇団東演 2015年5月〜6月

この公演の成功が今回の合同公演につながったのですね
見たかったのですが
公演の前の月が東京観劇ツアーでしたから・・・

さて
『その人知らず』







まだ公演中ですから簡単にあらすじ
一幕は戦前
「なんじ殺すなかれ、互いに愛せよ・・・」
純粋にキリストの教えを守り
招集を拒みつづけた片倉友吉(木野雄大:文化座)は
軍需工場で働く時計工
憲兵に捕えられ
彼を信仰に導いた人見牧師(大家仁志:青年座)の
転向への説得にも拘わらず
神への誓いを守ろうと
過酷な拷問に耐え続けるが
周りの人たちを窮地に追い込んで行く
父(名取幸政:青年)の自殺
弟(前田聖太:青年座)は職を奪われ
母親(腰越夏水:東演)も妹(伊東安那:文学座)も
貧乏のどん底
恋人の牧師の妹(森田咲子:民藝)も苦しみます
それでも彼は
「戦争はいけない!」と叫ぶのでした

二幕は戦後
世の中は大きく変わり
平和と民主主義が高らかに叫ばれ
手のひらを返したような世の中
獄中で屈しなかった細田(大滝寛:文学座)を呼んでの
労働運動の決起大会
おなじく
徴兵拒否の英雄として祭り上げられようとされる
友吉は
ただ・ただ
「人は殺し合ってはいけないと」
神の教えを守っただけだと素朴に答えるだけ
期待外れの言葉に司会者(星野真広:東演)はがっくり

皆が皆
世の中の動きに合わせて生きてる
かって体制側であった人たちも
労働者も聖職者も
そこにはただ空しさが漂います
救いと言えば
かって獄中で友吉の純粋さに打たれた
いかさま師の宗太郎(山本龍二)が
窮した友吉一家に食料や仕事を持ち込む場面に
涙がでます
みんなが冷たいわけではない
友吉一家を励ます友人もいます
戦中
教条的な社会主義リアリズムに疑問も感じながらも
労働者解放の夢を持ち
しかしながら
仲間が戦争で殺されてゆく中で
敵を憎いと思いこの戦争負けてはならぬと思った
三好十郎
『浮標』の中で戦場に向かう友を励ます五郎
戦争が拡大したころ転向を余儀なくされた五郎の気持
貧乏と戦い画業をすて妻美緒を必死に看病する五郎は
三好十郎そのもの
戦後
明らかに戦争をたたえた人々が民主主義を鼓舞する
進歩的知識人の偽善
それは三好十郎その人の苦しみであったと思います

戦後70年
風とか空気に流されて
いつまでたっても変わらないのか・・・
そんな悔しい思いも感じます

もう一度今
三好十郎という作家を見つめてみたい
9月に上演される文学座の
『冒した者』
これは見逃してはならない芝居だと思います

屈折した人見牧師を演じた大家仁志さん
ストレートな山本龍二さん
出番が少なかったけど大滝寛さんには多々感じるものがありました

関西公演があれば
また見たいと思います

補足                                     
三好十郎を知る上でこの本どうでしょう 
「恐怖の季節」は昭和23年から書かれた7篇の随想
解説(大武正人)では
『読者は、「問題を根本的に考えているユニークな文学論」(竹内好)−
「恐怖の季節」が同時にユニークな人生の書であることを読み取られるであろう。
それは三好十郎とういう強烈な個性の資質なのである。

 

『斬られの仙太』は神戸でも1968年10月に上演されています
初演は昭和9年(1934年)
プロレタリアート演劇同盟が解散し中心劇団であった左翼劇場が
中央劇場と改称しその旗揚げ公演として
築地小劇場で初演された
演出:佐々木高丸
仙太:滝沢修
松本克平、嵯峨善兵他
宇野重吉さんも農民の一人として出演

この公演は村山知義の批判を受け
劇団内部で論争になり三好十郎は
「なに言ってやがんだ」
『帰る!』
といって帰ってしまつた有名な作品です

そのころの三好十郎について
『浮標(ぶい)』のモデルの病床の妻を抱え
悪戦苦闘のなかで書き続けられた『仙太』が
いまだに色褪せず今日の作品であることを
人は見るだろう
斬られの仙太、傷だらけの仙太は
三好十郎そのものなんだ (群像昭和41年4月)
と解説にかかれています

『冒した者』に続いて『斬られの仙太』が上演されることを期待します
      
 

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