『中橋公館』 
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観劇記 あまご 
2017年7月16日 
 
          作:真船豊 演出:上村聡史 文学座 尼崎ピッコロシアター 

                   


文学座創立80周年記念公演
文学座創立メンバーの一人である真船豊作品です
真船作品は3年前に長塚圭史演出による
『鼬』
を観ました(初演は昭和9年)
昭和初期の東北を舞台にした物語
『鼬』の初演から3年後
盧溝橋事件から日中戦争が勃興し
文学座もその年に創立されます
築地小劇場が分裂し(昭和4年)
築地座や創作座が創立・解散と演劇界も揺れていた頃です

戦後71年
戦中・戦後を生きた劇作家達の作品を
同時代を生き抜いてきた文学座が
若手演出家:上村聡史によって上演することは
あとにつづくもの達にとっても
とても大切なことだと思います
・・・

当日会場には
高校生達がたくさんいてびっくりしました
100人以上かな
宝塚北高校や大阪の高校演劇科の生徒さん達だそうです
芝居を観る前から嬉しくなりました


文学座2018カレンダーより
芝居は
1945年(昭和20年)8月15日の玉音放送から始まります
あらすじはパンフレットから

終戦を北京で迎えた中橋一家
中国で半世紀にわたり医師としてアヘン中毒などの
治療に邁進してきた父・徹人(石田圭祐)は家族を顧みることなく
長男の勘助(浅野雅博)はそんな父への不満を募らせてきた
同じ気性を受け継げながらも勘助は
剛健な父とは違って生まれつき身体が弱かった
兄とは異なる逞しさで生きてきた大陸育ちの三人の妹たち
そして
家族みんなを見守ってきた母(倉野章子)

引き揚げか、残留か
大きな決断が迫られる時
祖国「日本」への思いはそれぞれに複雑でした
やがて
「中橋家」のひとりひとりが
新しい時代に向かって一歩を踏み出すことに
その時、父は・・・

勘助の父・徹人は50年前 30代の前半 若き頃
医師として大陸に渡り大勢の患者を助けます
母あやは子供達を大陸で生み育て
子供達も日本人としてより
大陸人として育てられてきたのでした
終戦直後の北京は満州と違い
国民党と八路軍の対立もある中で
僅かな小康状態
医師や技術者達は北京に留まることもできたのです

パンフレットに真船豊の「中橋公館」の誕生秘話がありました
北京は、何もかも、すっかりでんぐりかえってしまった
私をひっくるめて、日本人の変わりようと言ったら
実に悲壮極まる、滑稽さであった・・・
もはやあらゆる自由意思は、はくだつされた。
---- しかも自分たちはこれからどうされるか
全然不明の中に、私は五ヶ月間も
ここにうめいていたのだ
・・・しかし北京の街は平穏であった
そのくせ、日本人は、街に出ないこと
・・・シナ人に殺されるから気をつけろ
という回覧板が回って来た
私は部屋に閉じこもった
---- こんな時、沈啓无がやって来て、私に言う
「家ばかりいると、体に毒だ・・・外に出よう・・・
コセコセしていると、暴徒にやられる・・・
悠々胸を張って歩けば、奴らは手が出ない。
サア、散歩しよう」
そこで彼は私をうながして街に出た


沈啓无との会話は舞台にもありました
戦争が始まる前の日本と中国との関係は
魯迅と藤野先生のように
桃中軒牛衛門(宮崎滔天)のように
高い志を持った関係があったのだと
この芝居に出てくる人たちのように
そう思いました

徹人は
蒙古の砂漠で吹きさらしにされた狼の白骨と同様に
ひょうひょうと吹く清い風にさらされて大往生を遂げたいと
夢を語ります

一方
劇中で勘助を訪れる沈啓无らしき人物は
「中国の精神の貧困堕落はすでに宋の時代から始まった
日本はそうでないきっと立ち直ると・・・」
しかし
私は個人的には
「日本の貧困堕落は明治から始まった・・・」
明治から150年
その前半は戦争に明け暮れ
なんとか戦いのない後半の70余でした
しかし
今の日本を見ていると不安を感じます
立ち直ることができるのか・・・

戦中戦後を生き
自分を人間を社会をしっかりと見つめていた真船豊
そして
文学座の見事なアンサンブル
新劇とは「志が高い!もの」

あらためて思いました

旅の準備が整い
母と父そして三人姉妹の末娘(吉野実紗)
長女茂子(朝海綾子)の長女徳子(福田絵里)の一家を残して
日本に旅立つ準備が出来ました
勘助と長女の茂子、茂子の夫(木津誠之)、次女(名越志保)は日本に
どんな運命が待っているのか
芝居の幕は降りました

文学座はほぼ毎年のように関西に芝居を持って来てくれます
秋には八尾プリズムホールで
別役実作・鵜山仁演出による 「鼻」
江守徹・渡辺徹・得丸伸二・沢田冬樹
そして
金沢映子・栗田桃子・千田美智子・増岡裕子
ベテランに中堅に若手
劇団ならではのアンサンブルが楽しめます
感謝!


 

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