『旗を高く掲げよ』 
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観劇記 あまご 
2017年8月6日 
 
          作:古川健 演出:黒岩亮 劇団青年座第227回公演 稽古場公演 
                   


「青春18きっぷ」を使っての観劇旅行です
一気に東京に行きソワレ(夜の部)を観ることもできたのですが
体力に自信がないので前日島田に泊まり
翌日のマチネ公演
千秋楽の舞台でした
新しい劇作家を育てている青年座
劇団チョコレートケーキの古川健さんは
甘いチョコレートどころか苦みのあるチョコレートですね
とても辛口の芝居でした
観てはいないのですが
昨年9月にAI-HALLで上演された『治天ノ君』
とてもよかった!と
皆さんが口々に言っていたので
とても期待していました
芝居は期待通り
緊張感溢れるよく練られた芝居でした

記憶に留めるために
感想混じりのあらすじです



プロローグは 1945年4月21日ベルリン陥落寸前の場面
そして
第一場 「水晶の夜(ユダヤ人に対する組織的暴力事件」の直後の場面
主人公のハロルド(中央:石母田史朗)は善良な歴史の先生
妻レナーテ(松熊つる松)は時流に流され易いナチスの信奉者です
友人のヘルガ(右端:渕野陽子)はナチスに不安を感じています
そこに雑貨屋を営む近所の友人オットー(左端:島田翔平)が
アメリカに亡命するために別れの挨拶にやって来ました
オットーはユダヤ人で「水晶の夜」のあと
不安を感じていたのです

会場で配られた 劇団の開幕前の基礎知識では
1938年11月9日夜から10日未明にかけて
ドイツ各地でユダヤ教の会堂やユダヤ人商店などが破壊された事件
街路にばらまかれたガラスの破片が水晶のように
輝いていたことからこう呼ばれた。

オットーの店も襲撃されたのでした

数日後
SS(ナチス親衛隊)の友人ペータ―(豊田茂)が
SSで歴史の専門を生かした仕事をして欲しいとやって来ます
妻のレナーテは乗り気だがハロルドにはためらいが・・・
義父(山野史人)は元教師でナチスに反対
娘のリーザ(田上唯)はヒトラー・ユーゲントの隊員
立場の違う家族や友人が時代の波に呑まれて行くのでした



入隊を決意したハロルドはSSでの仕事に没頭し
ドイツの歴史的栄光を記した論文はヒムラーの眼にとまり
ハロルドやペーターは破竹の昇進を果たして行きます
ペーターが語るように
ナチス(国家社会主義ドイツ労働党)は身分や学歴や職種に関わらず
能力のあるものは出世できると・・・
不満は時流のエネルギーになるのです
流れがどこに向かって行くのか見定めることも大切です

第二場 フランスの降伏直後 1940年
第三場 「最終的解決」により絶滅収容所が稼働始めた時期 1942年
二人は狂ったようにSSの仕事に邁進

そんなハロルドを心配そうに見つめる
後輩の教師コッホ(小豆畑雅一)
「最終的解決」とは
ユダヤ民族の絶滅を湾曲的に表現した言葉
絶滅収容所を建設し
組織的にユダ人を大量殺害することを決定した
(開幕前の基礎知識)より
コッホが不安を感じるのは
彼の左手が不自由なことも一因があるのです
ナチスがドイツ国会において第一党となった1933年
その翌年に「遺伝病根絶法(強制断種)」が成立し
処分対象は精神病者や遺伝病者の他
労働能力の欠如者や同性愛者なども含まれていました
法制化されないまま安楽死が正当化され
ユダヤ人のホローコーストに繋がって行くのです

第四場 敗戦濃厚となった時期 1944年9月〜10月



赤軍の爆撃が続く中
リーザは棍棒を片手に外に飛び出してゆきます
追いかけるように義父もまた
呆然とするハロルドとレナーテ

第五場 1945年4月21日 プロローグの続き
敗戦を確信した二人は死を覚悟

そして意外な顛末
エピローグ 1949年11月13日
東西ドイツがそれぞれ独立を果たした時期

意外な顛末でしたが、あらためて思うに
チラシのメッセージに
「模範的なファシストは、模範的な市民でもあり得る」

言葉を反せば
「模範的な市民もまた、模範的なファシストになり得る」

市民とは失うものを持たない自立した市民ではなく
家族や財産や地位を守らなければならない
小市民
否定しているわけではありませんが
私の心のどこかにあるこの「小市民」性を押しとどめ
時代の流れに
抗うように生きてみたいと・・・

世の中まるで洪水のように流れてゆくこともあります
そして何もなかつたかのように静かに浸透して行くこともあります
小市民ではなく自覚的な市民として生きてゆくことが大切だと
古川健さんはこの芝居に想いを込められているのだと思いました

ハロルドを演じた石母田史郎さんは
実に難しい役を見事に演じられたと思います
そしていつもながら
青年座の見事なアンサンブルに敬服します
青春18きっぷの甲斐がありました

 ※題名の「旗を高く掲げよ」は、ナチス(国家社会主義ドイツ労働者党)党歌名。
作詞者の名前から「ホルスト・ヴェッセルの歌」とも
ナチス体制下では、第二国歌的な意味合いをもった歌だそうです
劇中に流れていた音楽がそうだったのか?
芝居を通じていろんなことを知ることができました
感謝!です
写真はパンフレットから

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