『鼻』 
Masao'sホーム  
観劇記 あまご 
2017年11月5日 
 
          作:別役実 演出:鵜山仁  文学座 八尾プリズムホール 
                            上演台本 テアトル 1994/12

          原作:シラノ・ド・ベルジュラック 岩波文庫
             作:エドモン・ロスタン
               訳:辰野隆・鈴木信太郎

 修道院の経営する老人ばかりの病院の裏庭。この病院はひそかに長期療養者の総入れ替えを行って経営状態を回復しようと、院長を先頭に頭を絞っている。毎日医者と修道尼たちが「さりげない嫌がらせ」を実践しているのだが、さりげなさすぎて今度の患者にはどうにも通じないのだ。その通じない患者──なぜか将軍と呼ばれている老人が車いすで庭に現れ、庭の木の枝に作り物の「鼻」をぶら下げさせている。病院は早くこのあやしげな老人を追い出し、新しい患者を引き取って儲けたいのだが、本人がほかの病院へ行くと言わないのでほとほと手を焼いている。そこへ老婦人が付き添いの娘とともに転院してくる。老婦人が二階の窓からふと庭を見ると、下には車いすの老人がいた。彼女は娘を呼ぶ。「ロクサーヌ、ロクサーヌ……」 老人の体が、かすかに身じろいだ……。
     文学座 HPより
          上演時間は1時間15分(休憩なし)


文学座2018カレンダーより
  女1:金沢映子 女2:千田美智子 女3:増岡裕子                       
                男1医者:徳丸信二 男4将軍:江守徹 女4:栗田桃子
                                    男2:渡辺徹 男3:沢田冬樹 
 
 男4「将軍」(江守徹)はかつてシラノ・ド・ベルジュラックを演じた役者であり、舞台では付け鼻を付けて演じていたが、ある日、付け鼻なしで舞台に立ってしまい(理由はあったのだが)、役者を首になった経緯があった。そのためなのかよくわからないが、病院の庭の木に付け鼻を毎日吊るすのが日課となっていた。彼が何故「将軍」と呼ばれるのもよくわからない。
 男2(渡辺徹)は必死に彼が「将軍」であることを信じこませようとしているし、男3(沢田冬樹)は「将軍」の孫として「将軍」の世話をしているが本当の孫ではなく、ビジネスとして様々の老人の世話をしている。
 最近入院した老女の付添の娘(栗田桃子)は、老女が勝手に娘と思い込んでいて、娘はかって看護婦で、間違った薬を夫に注射してしまい死なせた過去がある。単なる間違いだったのか、それともわざとだったのか、自分でもよくわからないらしい。別役実作品はその物語が真実なのか嘘なのか、それを解説すること自体が意味のないことかもしれないが、なんとなく、そうだな〜と思わせるところがあって、いつも不思議な気持になる。
 
 最近、義母が入院して知ったのだが、(表現は悪いかもしれないけれど)病院は2ヶ月程度で追い出されるらしい。入院して最初の2週間は高い診療報酬がつくが、段階的に引き下げられ、30日を超えると加算がなくなるためだそうだ。退院後のケア体制が整っていない状態では本人も家族も不安を感じることになる。劇中で男1医師(得丸伸二)が「この病院の長期療養患者と川の向こうの病院の長期療養患者を経営上のやりくりのために取り換えっこしなければ・・・」と、語る場面にはリアリティを感じます。そういえば、老女と付添いの娘も川向こうの病院からやって来たのでした。
 

 患者たちにさりげなく転院を促す修道女たち(増岡裕子・金沢映子・ 千田美智子)、シニカルな場面をコミカルな演技で笑わせてくれました。
 『冒した者』で栗田桃子さんの迫真の舞台を観たのは3ヶ月前、次々と難しい役を・・・感心しました。観劇したその日は桃子さんの誕生日でした。洋物から和物まで、文学座だけでなく、これからの新劇界を引っ張る女優さんですね。『父と暮せば』でインタビューしてから2年半経ちました。今回、ロビー交流会があって、来られる途中会釈しましたが、気づいてもらえたかな〜
 沢田冬樹さん、文学座のアトリエ公演『かどで』で昭和初期東京下町の職人の世界を描いた舞台での淡々とした演技は見事でした。そして、人気俳優を中心にばらばら感漂、個人的にはいまいちだった芝居、『わが人生のとき』 において、沢田さんだけは、後ろ姿だけでもすごい存在感を感じました。

 関西では「文学座」の芝居を観れるチャンスはめったにありません。この日は、江守徹さんと、もう一人の徹さんを囲んで、文学座のベテランと中堅と若手が奏でる見事なアンサンブルに酔いしれることができました。

 バルコニーから流れたようなロクサーヌの声は聞き覚えのある懐かしい声
   杉村春子さんの比較的近年の声だそうです
           文学座通信より
     若々しい声でした!


最後に病院を出て行く決心をした「将軍」
ロクサアーヌに捧げた手紙の朗読のシーンは
シラノ・ド・ベルジュラックの最後の場面と重なります。
ロクサーヌの声は杉村春子さん
杉村さんはロクサーヌを演じる女優の役
そして
栗田桃子さんがロクサーヌに・・・
クリスチャンとシラノが入れ替わるように
杉村さんと桃子さんが入れ替わります
将軍はシラノに・・・
 
 シラノ 貴様達にはどうしたって奪りきれぬいいものを
        俺はあの世に持って行くのだ
          ・・・
            他でもない、そりゃあ・・・

 ロクサア-ヌ     それは?
 シラノ           私の羽根飾(こころいき)だ
                             

ページTOP

Masao'sホーム 観劇記