『集金旅行』 
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観劇記 あまご 
2017年12月2日 
神戸文化ホール
 
          原作:井伏鱒二 脚本:吉永仁郎 演出:高橋清祐
                                神戸演劇鑑賞会12月例会
                  
あらすじ
 東京荻窪のアパートの主人がぽっくり亡くなった。家族も親戚もなく、遺されたのはかなりの額の借金。担保に入ってしまったこの安アパートが気に入ってこの先も住み続けたい居住者たちは一計を案じる。部屋代を踏み倒して夜逃げしていった不心得者たちの郷里を巡り、故人に代わって滞納金を取り立て、借金の返済に当てようというのだ。不運な役を受ける羽目になった十号室の自称"売れない小説家"のヤブセマスオ氏はしぶしぶ中国地方・九州へ向かう。それを知った七号室のコマツランコさんは、同行して各地にいる昔の不実な恋人たちから慰謝料を取り立てたいと……
こうして目的の違う集金人二人の奇妙な道中が始まる。
                                   パンフレットから
今月の例会は運営サークル担当
担当といってもほとんど何も出来ませんでしたが
お手伝いできたのは
舞台装置の搬入と搬出

井伏鱒二さんは
昔学生だった頃「山椒魚」という短い小説を読んだことがある程度
『集金旅行』という芝居はとても面白いと
台本を何度も読んだ芝居仲間たちが言ってましたが
初めての作品は予備知識が少ない方が楽しい!
とはいっても
今回は運営サークル担当だから
劇団民藝の俳優さん
岩国の金融業者を演じる「みやざこ夏穂」さんの勉強会に参加しました
この芝居の見所は?
劇団民芸の主演級の役者が勢揃い
そして
井伏鱒二作品の軽快さ
そして
舞台装置がいいです!
そんな話に期待が膨らみました
勉強会の当日は台風21号による大嵐
みやざこさんを送ったあと
カラオケボックスで一泊するという
大変な夜になってしまいましたが
これも思い出となりました

芝居はみやざこさんのおっしゃる通り
うまい役者さん達による楽しい芝居でした

ちょっと驚いたのは舞台装置でした
岩国の錦帯橋・福岡の桜
綺麗でした
不思議なのは骨のような形をしたパイプで造られた
プロセニアム・アーチ
プロセニアム・アーチは舞台と観客を区切るもので
一般的には額縁舞台とよばれており
文化ホールの舞台もそうですが
観客は芝居を額縁を通して絵画的・客観的にみるという
役割を持っています
これに対してオープン形式で
舞台と客席がひとつの空間となり舞台を囲むような形式を
アリーナステージと呼びます
古代ローマの劇場や野球場のような舞台です
文学座や青年座の稽古場公演などでは
よく見かけます
俳優さん達の向こうに観客がいて
若い人たちが真剣に見ている瞳にも緊張します

プロセニアム・ステージは19世紀、オペラの流行とともに
ヨーロッパ各地に広まりましたが
やがて舞台と客席を分断するプロセニアム・アーチを
取り除こうとする動きが現われます
市川左団次が初めてロシアにて上演した歌舞伎公演の
独特の舞台形式が大きな影響を与えたと言われています
ロシアのメイエルホリドは舞台と観客の一体化をめざし
舞台装置に回り舞台や花道を取り入れ
舞台と客席を取り払う「幕」も使わなかったそうです



アリーナステージ
(テアトルエコー 「約30の嘘」)

演劇は絶えず演劇を否定すると言われるように
疑似的なプロセニアム・アーチを初めて設けたのは
恐らく(確信はないのですが)
ソーントン・ワイルダーの「わが町」ではないでしょうか



「わが町」の第一幕のト書きには
幕なし
装置なし
入場する観客には、薄明りの空虚な舞台が目に入る
・・・・
観客の照明が暗くなりかけるころ
舞台監督は舞台の配置を終えて
右手のプロセニアム・アーチに寄りかかり
遅れて入場してくる観客を見守っている

2011年新国立で「わが町」を演出した宮田慶子さんは
「現実と虚構を区切る”プロセニアムアーチ”は限りなく薄くなり
入れ子構造も複雑化している現代、1938年という
今から70年以上も前に書かれたこの台本の逞しい知性こそが
演劇が本来もっている力の証といえます」
と書かれていました

プレセニアム・アーチを通して演じられたコミカルなこの芝居
井伏鱒二を敬愛しなんども自殺を図った
太宰治が生きた時代
彼が愛読した本は幽閉されたかのような「山椒魚」
殺された小林多喜二が生きた時代
プレセニアム・アーチの向こう側には
笑いの中にシリアスな時代が見えてくるようです

楽しい思いでは
例会中
劇団の皆さんと中華料理屋さんで懇親会
樫山さん・西川さん・塩田さん・吉岡さん
そして
みやざこさんに制作の高本さん
お世話になりました
来年早々
木下順二「神と人とのあいだ」にて審判と夏・南方のローマンス
連続上演
楽しみにしています


十番さん(ヤブセマスオ・小説家)
太宰 治(作家志望の学生)
五番さん(富士荘の居住者・勤め人)
七番さん(コマツランコ・職業不詳)
香蘭堂(荻窪の地主・文具店)
岩国の宿の女中
杉山良平(岩国の金融業者)
相原作之助(岩国の名士)
福岡の宿の女中
ミノヤカンジ(下関の医者)
阿万築水(福岡の没落地主)
阿万克三の妻(築水の弟の妻)
紋付の男(広島・加茂村)
鶴屋幽蔵(加茂村の地主)
津村家の番頭(広島・新市町
西川 明
塩田泰久
小杉勇二
樫山文枝
今野鶏三
箕浦康子
みやざこ夏穂
水谷貞雄
有安多佳子
竹内照夫
内藤安彦
河野しずか
岡山 甫
吉岡扶敏
伊藤孝雄

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