『たいこどんどん』 
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観劇記 あまご 
2018年5月13日 
井上ひさし作 ラサール石井演出 
こまつ座第121回公演 
紀伊国屋サザンシアター
 
江戸で一二を争う大店薬種問屋鰯の若旦那清之助(江端英久)

駆け出しのたいこもち桃八(柳家喬太郎)の東北流亡の物語


清之介役は青年座の窪塚俊介さんの予定でしたが急病のため
ラサール石井が最も信頼する江端英久さんに変わりました
江端さん見事な代役でした

初演は1975年
五月舎プロデュース公演で演出は木村光一
桃八はなべおさみ 清之助は高橋長英
袖ヶ浦・おとき・お熊はなんと
太地喜和子
最近では前進座が上演していましたね

井上ひさしさんの作品を観るのは今回で31作目
井上ひさし全芝居(その1〜7)で61作品ありましたから
やっと半分ほど見れたかな〜
神戸ではなかなかチャンスがありませんが
今年の神戸演観の11月例会は『マンザナ、わが町』
終演後、麻矢さんに
「神戸での再会楽しみにしています」と伝えました

物語は
品川の馴染の女郎袖ヶ浦(あめくみちこ)との奪い合い
薩摩侍との喧嘩のはて船で逃げだし
嵐に遭い
東回り秋田行きの千石船に助けられ
流れ流され9年間の北の旅
チラシには
江戸から北へ流亡の果ての生き地獄
抱腹絶倒・奇想天外・驚天動地

書かれていました



舞台写真はステージナタリーより

写真は第一幕 1 江戸は情婦(いろ)の場
越後屋呉服店番傘の場面
左から二人目が清之助
右から二人目が桃八
番傘のマークは越後屋三越
越後屋はとんでもない商い上手
越後屋で傘を借りた者は返しに来るときに
きっと買い物をして行くだろうとちゃんと算盤玉をはじいている
たとえ猫糞する不心得者がいても
傘は開いてさすもの
不心得者は傘1本と引き換えに越後屋の広告屋
どっちに転んでも越後屋は番傘のもとはとる
いやぁ江戸一 日本一

2場は袖ヶ浦をめぐる薩摩侍との喧嘩
薬種問屋鰯は薬に砂糖を混ぜるから
砂糖の相場に詳しい
琉球を支配して薩摩は砂糖をほぼ独占し
高い相場で大儲けをしていた
加えて
馴染の女郎袖ヶ浦は薩摩侍にお尻を撫でられている
薩摩芋野郎め!
大喧嘩の末
どぼんと飛び込む水の音



やーい
薩摩の芋侍どもォ
口惜しかったらここまでこ


江戸っ子は薩長が大嫌い
勿論侍たち 明治の支配者たちのことです
260年の間戦争をしなかった江戸時代に比べ
明治は富国強兵
戦争へと進んで行きました
作者の井上ひさしさんはパンプレットの中で
桃八と清之助に自刃をつきつけた尊王攘夷の薩摩の侍たちは
明治以前は「外国人を斬る」ことを主義としていたが
だが
ご一新以後
彼らが体制を支える立場に立つや
この主義はまったく機械的に百八十度の転換を行う
文明開化を宣伝惹句に掲げ
鹿鳴館文化に狂ったのは彼等だったのだ


明治は歴史を都合の良いように宣伝していたと思います
いまの政府もそうですが
権力を握った人たちには当然のことのようです
琉球王国を実効支配していた薩摩藩は
明治になると日本の一部として
琉球王国を解体し
沖縄県として吸収してしまいました
琉球の哀しみ今の沖縄の悲劇は
薩摩の実効支配から始まったのだと思います

このあと二人は嵐に遭い
東回りの千石船に助けられ
北に北にと船の旅
途中で降ろしてくれと船頭栄蔵(木村靖司)に頼みますが
栄蔵は風の吹いているうちにできるだけ北に行かねばと答えます
次の目的地は釜石
津軽海峡が荒れるまでに秋田に行かねばならない
そして
溺れる人がいれば助けるのは当たり前
礼はいらないと栄蔵は答えます
侍は体制を重んじ、船乗りは人を重んじます

釜石についた二人は旅籠に逗留
江戸の親元に送金を頼みますが
お金を届ける途中で幼馴染の手代勘兵衛は殺され
仕方なく江戸に帰る路銀と引き換えに
清之助は旅籠のおかみ(あめくみちこ)と結託し
桃八を釜石鉱山に売り飛ばします

舞台を思いおこしながら戯曲を読み始めました

第二幕の始まりは釜石鉱山
桃八はボロボロになりながら働きます
休めば飯にありつけないから
釈放金を持って迎えにくる清之助を待つのです
3ヶ月目を過ぎると毎日ワクワクしながら清之助の使いを持ち
4ヶ月目を過ぎると少し心配になり
5ヶ月目 かなり心配になった
6ヶ月目 とても心配になった
7ヶ月目 矢も楯もたまらぬ程心配になった
8ヶ月目 若旦那はひょっとしたら・・・
9ヶ月目 ひょっとしたら忘れなさったのでは
10ヶ月目 若旦那を憎いと思った
11ヶ月目 若旦那を人非人めと思った
1年目 鬼の清之助めと思った
そして毎晩若旦那を殺す夢ばかり見続けた
2年目 毎晩この生き地獄を抜け出す夢をみた
3年目
百姓一揆がおこり鉱山の番所に火が広がった
そのドサクサに桃八は逃げ出した

逃げ出した桃八は
魚や塩を運び穀物と交換する魚婆(小林美江)に出会い
富本節(浄瑠璃)の大夫として紹介され遠野に
芸は身を助けるとは
そして羽振りも良くなり盛岡に
そこでなんと運命のいたずらか
三味線弾きとの出会い
有名な三味線弾きとは若旦那清之助だった
桃八は清之助にとびかかり
拳を振り上げるが震えるだけ
殴れない
清之助が無一文だと知ると財布を差し出す
清之助は
江戸への路銀はばくちで磨ってしまっていたんだ
清之助 ・・・桃八おまえとまた旅がしたいよ
桃八   それはわたしも同意見       
そして二人の芸人の旅が始まった
吉岡の閻魔堂では袖ヶ浦そっくりのお熊(あめくみちこ)に出会い
お熊の妹お篠(酒井瞳)とともに4人の旅が始まる
ところがお熊は山賊雷峠の大五郎の女で瘡っかき
清之助と桃八は一度は逃げ出すのだが
捕まり鎖で繋がれ大五郎の専属のたいことなる
清之助はお熊とねんごろとなり
お熊は清之助の鎖をほどく
大五郎は薩長の間者だとお熊に告げ口され
仙台藩に山狩りをされる
鉄砲で撃たれた大五郎がお熊を槍で突く
二人は瀕死の状態で悪態の付き合いの後絶命
そして仙台を避けて新潟に向かう
途中天童で三味線と着物を買い
お熊からもらった路銀を使い果たす
舟にも乗れず
鳥追いで駄賃を稼ぎながら新潟大湊
あまりにも空腹で二人はひっくり帰る
そこへ目明しの文吉(木村靖司)が通りかかる
注)原作では18場は鳥追い渡りどりですがどうでした?
18 発病
新潟大湊の旅籠鶴屋の大座敷
新潟一の造船問屋鱗屋の前で清之助は三味線が弾けなくなる
鱗屋(俵木藤汰)は怒り
口を聞いた文吉も形無し
挙句の果てに桃八の片足がもがれてしまう

19 乞食座
惹句かきの清之助と片足になった桃八の二人は乞食道中
柏崎の乞食座で婆(あめくみちこ)にみかじめ料を求められる
どこから来たと聞く婆 桃八は
新潟・白根・三条・長岡・小千谷・直江津・柏崎
桃八
いきなり婆の茶碗をひったくり逃げる
乞食から銭を盗むとは・・・・

20 草鞋
柏崎の船着き場の外れ
首をくくり死にたいという桃八に
清之助は桃八の面をパシリ
遠くに見える佐渡島をみてあるアイデアを話す
若旦那 瘡はかいても日本一!
草鞋の交換業

21 蝙蝠傘
江戸は日本橋 八年ぶり
瘡はすっかり直っている
桃八は片足のまま


しかし鰯屋は見渡らない
東京娘(あめくみちこ)に聞くと
品川沖で行方不明になった
道楽息子のおっかさんは寝込み
翌年攘夷党の浪人たちが軍資金稼ぎに鰯屋を襲い
大旦那さんは切られ
ああだこうだとしているうちに鰯屋は潰れ
妹も行方知れづになったとか・・・
江戸は東京になった
清之助
江戸はどこに消えちまったんだよう・・・
いきなり桃八
清之助に平手打ち
江戸はなくなっても江戸者はどこまで行っても江戸者じぁありませんか
これからどう生きようかですって?
ふん 今まで通りですよ
・・・
東京が化け物になろうが
どうにも変わりようはないんだ
だから若旦那
なにも変わっちゃいませんよ!


上手と下手からこの劇に登場したすべての役者が
蝙蝠傘をさして現われ歌う
こうして二人の旅は終わりました

井上ひさしさんのことば

世の中と歩調を合わせる
という生き方は奴隷の生き方である。
われわれは世の中の主体である
という考え方は
いいかげん捨てた方がいい。
わたしたちはそれの客体なのだ。
対立物なのである。
世の中を批判するのもいい
あるいは先きまわりするのもいい 
とにかくこれからはそういう客体としての生き方に
切り替えていった方がよかろう。
でないと体制(おかみ)の方針が
はれんちに右や左へ変るたびに
清之助のように
わたしたちはいつも呆然自失を専売特許にしていなければならなくなる
パンフレットより


写真はステージナタリーから引用しました
https://natalie.mu/stage/news/281012

わたしはこれから
東北一人旅に出ます
今年3月は会津若松
今回は弘前・秋田の旅ですが
ひさしさんの故郷はその中間
米沢に近い小松市
多分秋には芝居仲間と訪ねることになると思います
一人旅になるかな?
楽しみです

 

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