『かのような私〜或いは斉藤平の一生〜』 
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観劇記 あまご 
2018年9月18日 
 

1948年(昭和23年)12月23日。
皇太子(今上天皇)の誕生日であるこの日、東条英機をはじめとしたA級戦犯が処刑された同じ日に、東京の教育者一家・斎藤家に待望の第一子が誕生する。平和な時代に生きて欲しいという思いを込めて平(たいら)と名付けられた。
高度経済成長、学生運動、バブル、不況、震災・・・
昭和、平成、そして未来を懸命に生きた男の一代記 

久々の文学座のアトリエ
小さな小屋で
若い作家の作品を観るのも楽しみです
古川健さんは1978年生まれの俳優・劇作家
チョコレートケーキという名の劇団に所属されていますが
劇団名と違ってなかなか辛口の劇作家です
私は見れなかったのですが
『治天ノ君』という作品を観てとてもよかったよ!
そんな話がきっかけで戯曲『幻の国』を読み
『旗を高く掲げよ』 『Singa Song』を観て
古川健さんに注目するようになりました

余談ですが
来年の神戸演劇鑑賞会の11月例会では
『あの記憶の記録』が
上演されます
残念ながら神戸と京都だけの例会で
関西の他の鑑賞会では上演されません
関西の鑑賞会の会員さんが高齢化していることもあり
若い人たちの作品に疎いのかもしれません
ところがこの作品
是非団塊の人たちにも観て欲しいのです



芝居をみた事務局長と私宛に
塩田朋子さんからお葉書が届きました

ものがたりは冒頭の文学座のあらすじにもありましたように
主人公の平(たいら)は1948年生まれ
まさに団塊の世代の家族史なのです
作者の古川健さんは30年後に生まれます
つまり息子が親父のことを書いた芝居なのです

敗戦後の斉藤家が最初の場
1948年12月23日
今の天皇が生まれた日
A級戦犯が処刑された日
平(亀田佳明)が生まれた日

祖母である斉藤とも夫(関輝夫)と
息子の信一(大滝寛)・妻の伸子(塩田朋子)のもとに
信一の友人大熊誉(川辺邦弘)が訪ねてきます
明治生まれの戦前は校長を務めていた智夫は
師弟を戦場に送ってしまつた後悔から隠居しています
平和を祈り孫に平という名前を付けます
平の父信一は上昇志向の強い教師で
教頭・校長・教育委員長と出世して行きます
妻の伸子はお世話好きの優しいお母さん
復員の挨拶にやってきた信一友人の大熊は中国で赤化教育を受け
日本を変えなければと叫ぶ青年
まさに戦後は混とんとした時代でした
団塊の世代はこんな時代に生まれ育ったのです

やがて60年代から始まった高度成長期を迎えます
1968年12月28日
平は20歳
平達団塊の世代の青春期
安保闘争・学生運動・ベトナム反戦運動
60年代から70年年代の初頭は嵐のような時代でした
平は20歳になり大学生で自治会活動をしています
仲間には千坂多佳子(大野香織)・安田誠(萩原亮介)・吉江恵二(江頭一馬)
純粋な古江は右翼学生に頭を殴られけがをしながらも
学園闘争にのめり込んで行きます
多佳子が好きな安田も学園闘争に
平と多佳子は過激な学生運動にはためらいがありました
私もその頃悩みました
時代について行かねばと・・・
10.21国際反戦デーのデモ
どの陣営の行進に参加するか仲間で話し合い
悩んだ末
ベ平連のデモに参加しました
途中
すれ違った労働組合の人たちに
「頑張れと!」と励まされ
解散前の
フランスデモに陶酔した学生の一人でした
今思えば
懐かしい思い出



1988年12月23日
平 40歳
平は多佳子と学生結婚して
登校拒否の息子(池田倫太郎)がいます
平は教師となり組合活動やいろいろと多忙
早々と結婚し子育てに追われた多佳子は専業主婦となり
自宅で翻訳の仕事をしています
吉江は小さな工場で働き組合活動
安田は証券会社に勤めバブルで羽振りが良い
しかしそんな時代も長くは続きませんでした

2008年12月23日
平は還暦60歳
定年後は嘱託講師の予定で落ち着いた生活ぶり
安田はバブル崩壊後
会社が倒産・・・自殺
吉江はガードマンをしながら子供食堂でボランテア活動
それなりに幸せそう
息子の学は高校中退後ぶらぶらしていたのですが
立ち直り
資格をとって看護施設で働いています
そんな学が結婚したいと
バツイチで二人の子持ちの真理(梅宮綾子)を連れてくるのでした

2018年12月23日
平は70歳
真理と二人暮らし
二人の老後を考え真理は同居したいというが
多佳子はやんわりと断ります
平の学生時代の夢であった留学と
ボブディランの通訳になりたいと思っていた多佳子の夢
その夢を求めて二人は世界を旅することに


最後の場面は未来です

2028年12月28日
多佳子が亡くなった日
舞台に輪のように並べられた
旅の思い出の品々
成長した平の孫たち

過去・現在・未来
私達団塊世代の物語
戦前の激動の時代に比べたら
緊張感に乏しい時代であったかもしれないけれど
平和を守り
それなりに懸命に生きてきた

これから息子や娘
そして孫たちが幸せに生きて行けるのか
時代はどのように進んで行くのか
様々な想いにとらわれながら
アトリエをあとにしました




 

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