『スリーウインターズ』 
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観劇記 あまご 
2019年9月8日 
 
文学座アトリエ
作:テーナ・シュティヴィチッチ
訳:常田景子 演出:松本祐子



観劇記はAKさんに書いてもらいました
 アトリエの何もない空間、今回は客席が左右のブロックに分かれフラットな舞台を囲む。舞台の隅に何かがうず高く積み上げられている。あれは何だろう?他には食卓と椅子、長椅子、ダブルベッド、食器棚が適当に配置されている。
 舞台はクロアチアのザグレブ。第二次世界大戦直後の1945年、ユーゴスラヴィア崩壊直前の1990年、クロアチアがEUに加盟する直前の2011年という三度の冬に、ある一家に起こった出来事。一族の四代にわたる女性たちとその夫や恋人の人生が描かれる。時代は順番に進むのではなく、行ったり来たりするので最初は戸惑う。
 冒頭は1945年、パルチザンとして戦ったローズは、ナチスの協力者だったブルジョアジーの家を手に入れる。実はその家はローズの母がかつてメイドとして働き、追い出された家だった。うず高く積み上げられた物、それは国有化された家の鍵の山で、その中から自由に選べと言われる。鍵の山が示すもの、それは社会主義ユーゴスラヴィアか。
 1990年、ローズの葬儀の夜、ユーゴスラヴィアの分断が決定される。そのニュースに驚くローズの娘マーシャや夫たち。チトー亡き後、民族と宗教の違いから分断の危機に陥り、社会主義の理想を目指した国家の崩壊と激しい内戦は私達の記憶にまだ新しい。
 そして、2011年EU加盟直前、ローズの孫ルツィアの結婚式前夜。夫となる人の経済力で同居の二家族を追い出し、家を所有しようとするルツィアとそれに異を唱える姉のアリサ。
 遠いバルカン半島の国クロアチアのめまぐるしく移ろう歴史に改めて驚く。社会体制が大きく変わる時、人はどう生きていくのか。時代に翻弄されながらも、愛する者を守るために葛藤する姿。特に女性の目線で世界を捉え、歴史の流れと個人の人生というテーマを浮かびあがらせる。観終わって、自らの家族と世界の過去・現在・未来を考えないではいられない。
 休憩時間15分を挟んで3時間の上演時間を長くは感じない充実した舞台。ベテラン女優陣の安定した演技、特に寺田路恵と倉野章子が絶妙。倉野と石田圭祐の夫婦の会話も軽妙で思わず笑ってしまった。
 

配役




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