『ブルーストッキングの女たち』 
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観劇記 あまご 
2019年10月9日 
 
作:宮本研 演出:稲葉賀恵(文学座) 
ピッコロ劇団第65回公演



大正元年、伊藤野枝は
郷里福岡を飛び出し
平塚らいてうの発刊した雑誌「青鞜」の事務所を訪れる
そこには
大杉栄の恋人である神近市子や
尾竹紅吉(べによし)大正ロマンの幕開けとなる
そうそうたる婦人解放のメンバーが集っていた
もちろん
大杉栄や荒畑寒村達も出入りしていた

野枝は上野女学校時代に憧れた辻潤のもとに身を寄せ
二人の子供をもうけるが
やがて大杉栄と恋におちる

演出の稲葉さんがチラシに書かれていました
この芝居に出てくる人物は
私たちが描く一般的な印象に比べて
極めて泥臭く不完全な人物ばかりです
野枝、大杉栄、らいてう・・・
その時の感情に任せてなりふり構わず行動し
大いに失敗するその姿は実にカッコ悪く
時に倣慢で我慢
理想は掲げるものの現実は伴わず
上手く転ばぬ自分の人生に煩悶するさまはカリスマとは程遠い
しかし
我慢で何が悪い、情けなくて何が悪い
彼らは自分が自分らしくあるために「今」を本気で考えようとしています
彼らにとって「今」の重要度は
私たちのそれとは比べようのないほど大きいのです。
野枝と大杉が命を全うした後
治安維持法が日本という国を大きく戦争の時代へと舵切りして行きます
私たちは果たして彼らが守り抜こうとした
「今」を受け取ることができるでしょうか


我慢とは仏教でいう『慢(うぬぼれ)』という七つの煩悩の一つだそうです)
『我慢』とは、自分の意見は間違いだとわかっても、
いったん自分が主張したことは曲げられず、
自分の思いを押し通してしまう、うぬぼれ心です
。)

この芝居は
大正という時代を自由を求めて生き抜こうとした
明るくて
楽天的で
とても愛すべき人たちの物語ですが
大正という時代は
残酷な時代でもありました
野枝と大杉は関東大震災直後の大正12年(1923年)
憲兵隊の甘粕正彦により虐殺され
2年後には治安維持法が制定されて社会は戦時色に染まって行きます

今月は『治天ノ君』という大正天皇を描いた芝居を見ました
大正ロマンという
日本の民主主義の芽生えと同時に
弾圧の果て戦争に向けての準備を進めていた時代
今年は平成から令和に代わりました
改憲に向けてのプログラムが着々と進行しています
稲葉賀恵さんが書かれたように
大杉栄・伊藤野枝達
彼らが守り抜こうとした「今」を
しっかり受け止めなければと思いました

作者の宮本研さんの同じ大正時代を描いた芝居
『美しきものの伝説』を観たのが私が21歳の時でした
野枝は太地喜和子
福岡から親の進めた結婚を振り切って上京した野枝は
松井須磨子に続く女優になるのが夢でした

この芝居に出てくる野枝さんは
野枝役は入団2年目の若手・田渕詩乃(宝塚北高演劇科出身
元気いっぱい
よかったです

『美しきものの伝説』の鎮魂歌(レクエイム)です
 
          花咲かそ 花咲かそ
          死ぬほど生きた 人たちのために<
          花咲かそ 花咲かそ
          死ぬほど生きた 人たちのために<
          死んだ人たち やすみたくても
          目を閉じて はいけない
          広場に そそりたつ
          柱の花かざり
          その眼で見るため
          花は花は 咲いたか


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