『寒花』 
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観劇記 あまご 
2019年3月7日 
 
作:鐘下辰男 演出:西川信廣
文学座公演 紀伊国屋サザンシアター
上演時間 2時間40分(途中休憩15分)
写真はステージナタリーから



 この芝居は
初代兵庫県知事(官選)を務め
初代内閣総理大臣
初代枢密院議長
初代貴族院議長
初代韓国統監
となった
伊藤博文を暗殺したといわれる安重根と
安重根を収監した人たちの物語

安重根は日本ではテロリストとして知られていますが
韓国では英雄
今の日韓の関係はマスコミ情報によると
慰安婦問題
徴用工問題
領土問題(竹島)などで最悪の状態と言われています
しかし
年々韓国からの訪日客は増え続け
庶民の感覚ではそうでもないらしいけど
20数年前の韓流ブームの頃とは逆な
煽られたようなムードを感じます

かって70年代
日本でも韓国でも若者の民主化運動が高揚していました
韓国では朴正煕軍事政権下で若者が投獄され
金大中が拉致された頃(1972年)です
韓国の詩人金芝河救援活動が日本でも起り
韓国の民主化運動を取り上げた芝居
『燕よお前はなぜ来ないのだ』
脚本:大橋喜一 演出:米倉斉加年 劇団民藝

1977年に全国で上演されました
日韓の若者たちとの連帯運動が高揚した頃です
韓国では
70年代の後半になると独裁政権下にあつた中間市民層が
政治的自由を要求するようになり
カーター米大統領の韓国批判もあり
朴政権は苦境に立たされることに
そして
1979年
朴正煕大統領が央情報部部長金載圭に射殺される事件が起き
韓国内には『ソウルの春』と呼ばれる民主化運動が起きたのです
しかし
軍を掌握した全斗煥は
金大中ら民主化運動家を逮捕
これに反発した
光州では大学生・市民による大規模なデモが起こり
軍が鎮圧して多くの犠牲が出るという光州事件が発生しました
その後
1987年の民主化運動により憲法が改正され
国民直接選挙での大統領選挙が始まりました
盧泰愚大統領就任
そして金泳三・金大中の非軍人大統領が続きました
私が韓国で橋づくりのお手伝いをしていたのはこの頃でした
少しばかり韓国の歴史を学び
誠実で勤勉な若い技術者や
トビ職の人達とも交流できた楽しい時代でした
日本の多くの文化は朝鮮半島を通じて入ってきたのだと語る
若者の誇らしげな顔が生き生きとして
嬉しそうでした
人と人
文化と文化の交流は
いがみ合うことではなく
自信を持って接することだと思いました



日本が敗戦により民主国家となって70余年
韓国が民主国家となり30余年
韓国は比較的新しい民主国家で
まだまだ未熟なところもあるでしょうけど
(日本もまだまだですけど)
ただ
こうして韓国の戦後の歴史を見てみると
日本と異なり
民衆の力によって勝ち取って来たものが多々あります
それは苦しい戦いだったと思います

上の写真は明治以降の日本のエリートたちの葛藤です
左端の黒木鉄吉(外務省政務局長)は薩長閥のエリート官僚
黒木氏に抗議する蘇我看守長は北陸の名のある士族出身
監獄医の父は東北の小さな潘の徒士頭で維新の時に賊軍の汚名を着せら殺害
この芝居に登場する看守たちは殆どが東北出身です
薩長閥は官僚になれても
賊軍出身者は警察官になるのが背一杯だったと
そんな話を聞いたことがあります
日本の敗戦までは俗にいう官軍と賊軍の差別があったのです
配役
安重根
楠木龍星(通訳)
宮田健蔵(監獄医)
黒木鉄吉(外務省政務局長)
吉原健次郎(典獄 監獄の長)
蘇我敬輔(看守長)
佐々木幹夫(看守)
清水貞男(看守)
高木冶介(模範囚)
女(楠木の母)
刑事
瀬戸口郁
佐川和正
若松泰弘
細貝光司
大滝寛
得丸伸二
常住富大
池田倫太朗
鈴木弘秋
新橋耐子
横山祥二
あらすじはパンフレットより
明治43年(1910年)
旧南満州・旅順の監獄に
ハルビン駅前で時の韓国統監であった伊藤博文を暗殺した
朝鮮人青年・安重根(あん・じゅんぐん)が収監されてくる。
日露戦争の戦勝国として体面を保つため
<無事に>安の死刑を執行すべく派遣されるエリート外務省高官と
監獄の長である典獄、看守長、獄内の情報提供者である模範囚
皮肉な傍観者を気取る監獄医らの確執の中で
統監府から差し向けられた朝鮮語通訳と死刑因・安重根との静かな対話が
ぶつかり合う人間たちの心に揺さぶりをかける。
窓外には寒花(雪)が降りしきる。



安重根は
とても知性的な人物だったようです
出自は両班(貴族)
安重根の手記
悠久なる朝鮮の歴史の上に一個の捨て石となれば
満足であると私は思っています。
いつの日か朝鮮に日本に、そして東洋に
本当の平和がやって来てほしいのです。


写真はお酒の飲めない安重根への別れの盞です
1910年(明治43年)死刑執行
その年
大逆事件 韓国併合
1912年(明治45年/大正元年)
清朝滅亡
ここから日本は全世界を敵に回し
戦争への道へと暴走して行きます

芝居の中での監獄長や看守長
そして安重根の通訳として心を開いた楠本
若き看守たちは明治の代に賊軍として生きて行かねばならぬ痛みから
少し安重根の想いが伝わったように思います

パンフレットには
外務省政務局長 黒木鉄吉を評して
近代の黎明期を終えた日本は
やがてこうした江戸時代を知らぬ
頭脳明晰な「新世代」によって動かされていく
こてより数十年後
全世界を敵に回し暴走した昭和前期の日本を動かしていった男たち
その中心的役割を果たすのが
いわゆるこの世代である


思えば今も同じように
戦争の苦しみを知らないエリートたちが
過去の歴史や多数の民衆に眼を向けることなく
上に前へと突き進んでいるのでは
ニュースを見るたび聞くたびに
そんな思いがしています

実に重たいテーマの芝居でしたけど
見応えのある
考えさせられる
思いはせなければならぬこと多々
様々な想いにとらわれた見事な芝居でした


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