『観劇記』

観劇記 あまご 
2013年9月8日 
          作 :森本薫 
           演出:ふじたあさや 
          青年劇場
          紀伊国屋サザンシアター
         

 青年劇場が森本作品を上演するとは・・・少し意外な気がしましたが、見終わったあと、とても充実した気持ちでした。34歳の若さで亡くなった森本薫の作品は少なく、杉村春子さんが永年演じ続けてきた「女の一生」以外はあまり上演されることがなかったのではないかと思います。「女の一生」の前年に書かれたこの作品「怒涛」は反骨の医学者「北里柴三郎」をモデルにした作品で、まさに「男の一生」ともいえる芝居でした。
 この作品が書かれた1944年は終戦の前年、厳しい検閲下の中で国家に対する個人としての抵抗が巧みに描かれています。北里柴三郎は感染症の予防医学の牽引者として日本の近代医学の礎を築いた人ですが、彼の人生はまさに人間の良心をかけた、官(国家)との戦いでした。科学や技術が人々の幸せのために使われるのではなく、お金と名誉のために使われて行く空しさが今の世の中でも感じられることが多々ありますが、あの暗黒の時代に個人の意思を貫き通した炎のような生き様に震えるような感動を覚えるのでした。
 そして、「怒涛」が森本薫の所属していた文学座ではなく青年劇場が上演したこと、ブレヒトの作品「ガリレオの生涯」が俳優座ではなく文学座が演じたことなど、劇団も果敢に挑戦をしているんだと、とても嬉しく思いました。来年は文学座が平淑恵で「女の一生」を上演するそうです。杉村春子さんとは一味違った「女の一生」になるでしょうし、「怒涛」という男の一生を見ることが出来た私にとっても、森本薫の世界が少し身近に見えてくるかもしれません。




配役

北里  柴三郎
北里の妻 富子
北里の娘 善子
杉本光弘
大山秋
小泉美果


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