『ガラスの動物園』

観劇記 あまご 

          作:テネシー・ウィリアムズ 
          演出:長塚 圭史
           渋谷 シアターコクーン 3月24日

         



 観劇ツアー第一弾は『ガラスの動物園』です。
この芝居は昔一度観たことあるのですが
暗くて悲しい芝居だった印象があるだけで
よく覚えていません。
多分
深津さんが出ていなければ観なかったかもしれません。
ところが
長塚圭史さんの演出はとても斬新で
あっという間の感動的な3時間でした。
 舞台は
大恐慌の嵐が吹き荒れた1930年代の
セントルイスのうらさびれたアパートの中なのか外なのか
傾斜舞台の奥行きのある灰色の空間。
空間の左右に6つの扉があり
左の扉の前に街灯
正面奥に窓と窓の手前に机が置かれた不思議な舞台。
やがてトム(瑛太)現われて、
この時代と芝居の背景の説明が始まります。
この芝居が追憶の芝居であることを・・・。
彼は登場人物であると同時に進行役でもあるようです。
そしてトムの退場と入れ替わるように8人の不思議な黒子?
灰色のタイツ姿のダンサーが
6つの扉の隙間から蔦が忍び入るような緩やに妖艶な姿で現れて
椅子やらテーブルを運びこんできます。
舞台は外の空間からアパートの一室に変化します。
見事な演出!
8人のダンサー達は
舞台が転換するたびに現われて
舞台の装置を入れ替えるだけでなく
特にトムの心情の変化を表現しているようにも見えます。
 登場人物は8人のダンサーを除くと4人。
少し妄想的で思い込みが激しく愚かでもあるけど、
どこか愛すべき母アマンダ(立石涼子)。
靴会社の倉庫で働き、
あの時代のこの家庭の閉塞感の中から抜け出すことを夢見る詩人トム。
足が少しだけ悪く気弱な性格からガラス細工の動物達と触れ合うこと
悲しい時は、
父が残したぜんまい仕掛けの蓄音機を狂ったように回し始めるローラ(深津絵里)。
そして
アマンダとローラの希望の星として現れたごく普通の若者ジム(鈴木浩介)
彼はトムの友人でローラの高校時代の憧れの人だったのですが・・・・
ジムがローラの手を取ってダンスをリード
とても恥ずかしいのだけど
どこか嬉しそうなローラ
とても可愛くて
ひょっとしたら、
ここのまま幸せになるのでは、
と思わせるシーンでした。



 この芝居
トムが冒頭に語るように追憶の芝居であること
ちょっと辛かったことや悲しかったことが
個々の人生の抽象化された事象として深く心に沁みこんできます。

 すざまじい稲妻が世界を照らしているんだ!
  そのローソクを吹き消してくれ、ローラ!
   そして
さようなら・・・・・
 心に沁みる芝居でした。



ページTOP

Masao'sホーム 観劇記