『初芝居』 京都南座

観劇記 あまご 

                             


 今年の初芝居も例年通り、京都南座での前進座歌舞伎です。
 前進座は今年で創立八十周年になるそうで、記念口上は中村梅之助さん、戦前・戦中・戦後を振り返っての思い出話し、笑と涙とやんやの喝采、素敵な口上でした。
 さて、芝居は三幕十二場の「明治おばけ暦」と二幕五場の「芝浜の革財布」、2本とも、八十周年記念の初春特別公演に相応しく、華のある芝居でした。
 「明治おばけ暦」は山本むつみさんという若い作家、テレビドラマ「ゲゲゲの女房」の作者だそうで、舞台作品は今回が初めてとか、これからが楽しみな劇作家です。
 主な登場人物は、芝居好きな暦問屋の若旦那栄太郎を七代目嵐芳三郎、そして河竹新七(後の黙阿弥)を六代目河原崎国太郎、守田屋に中村梅之助、大隈重信に嵐圭史と、豪華な顔ぶれです。
 筋立ては、明治5年9月の頃、岩倉具視や木戸孝允ら政府の要人多数が条約改正交渉のため欧州に出かけていて、留守役が参議大隈重信、刷り終わった翌年の暦を見て、明治6年はうるう年で13ヶ月あることに愕然としたのです。つまり13回月給を払わねばならない、たったそんなことのために・・・・と、栄太郎
 11月9日、旧暦の明治5年12月3日をもって太陽暦の明治6年1月1日に改めよという詔書が下されたのでした。暦を刷り終わった直後、晦日までわずか22日、12月は3日しかありません。どうやって新年を迎えたらよいものやら、太陽暦など聞いたことのない人々もこの突然の改暦に驚きました。大隈重信らは政府の要人達が居ぬ間にこっそりと改暦の準備を進めていたのでした。条約交渉が進まぬ岩倉達をあざけ笑いながら、素早く改暦できたことを喜び合う姿は、庶民の気持とはあまりにもかけ離れたものです。ともかく、つい数年前では攘夷であった下級武士たちの身代わりの速さは見事です。
 「何もかも西洋に!」歌舞伎はオペラに、頼母子講は銀行に、・・・新七も新政府には不信感があります。この辺は井上ひさしの「黙阿弥オペラ」が詳しいですね。
 幕末から明治を描いた芝居に、島崎藤村の「夜明け前」がありました。幕末の激動期、木曽山中の庄屋に生まれた青山半蔵は、天皇親政・民意の尊重をうたう明治維新を支持していたのですが、新政府の政策は、半蔵にとって幻想以外のものではなかつたことが分かり、半蔵さんは発狂するのです。片や、河竹新七は黙阿弥と名を変え、つまり『もとの黙阿弥』、したたかに生きてゆきます。新劇もそうですけど歌舞伎の世界は常に時の権力を笑いとばします、それが魅力であり、庶民の憂さ晴らしなんでしょう。
 ちょっと暗かった昨年ですが、今年は良き年になるよう、嫌なこと笑い飛ばしたいですね。「もとの黙阿弥・・・」そんな生き方に魅力を感じます。



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