『フォルケフィエンデ』 

観劇記 あまご 
2015年7月29日 
 
          作:へンリック・イプセン 訳:毛利三彌  演出:小山ゆうな 

                   
 私にとって、今年2本目のイプセンの芝居です(1本目は「海の夫人」)。昔、映画で「民衆の敵」を見ました。有名なアクションスターのスティーヴマックイーンが温泉の鉱毒を追求するストックマン医師を演じていました。「ペールギュント」や「人形の家」の作者としてしか知らなかったイプセンが、今から130年ほど前に、公害問題を扱った芝居を書いていたことは驚きでした。人民の敵とは?なんだったか?だれだったのか、ずいぶん時が過ぎ、記憶も薄れ、恥ずかしながら芝居の途中で「そうか!」と気づくのでした。



 ものがたりは訳者の毛利三彌さん(もうり みつや)がパンプレットに書いてました。
温泉町の鉱泉汚染をめぐって真実を公にしようとする医師と、それをもみ消そうとする兄・町長率いる町民との戦い。この今日的問題の劇『人民の敵』は、いま多くの国で上演されている。(人民の敵)呼ばわりされても、あくまで闘う医師は、正しいのは常に選ばれた少数派だと叫ぶ。それは民主主義の否定か、衆愚政治の批判か。まさに現在の我々に突き刺さる問題である。

 まさに、現在の我々に突き刺さる問題です。いまの日本、自公政権による多数が少数の意見を封殺し、戦争への道に突き進んでいます。自民党の武藤衆議院議員が安保関連法案に反対する学生たちに対し、「彼ら彼女らの主張は戦争に行きたくないという自分中心、利己的な考え、戦後教育のせいだろうと」と言っています。戦争に行きたくないのは、あの悲惨な戦争から学び平和の世の中で生きてきた人々なら誰しも思うこと、若者を含めて私たちは歴史から学びました。権力の上に立つ者は決して戦争には行かない。戦争に駆り出されるのは若者で看護師や技術者は最前線に置かれることも知っています。7/31日の夜、国会包囲した1.2万人若者は全体からすれば少数かもしれません。戦争反対を叫ぶ若者たちを「民衆の敵」と武藤氏は思うのでしょうか。70年安保の挫折を経て、政治の世界から遠ざかっていた若者たちが、今立ち上がったのです。しかも全国で、そのうねりは日増しに高まっています。8/5朝日朝刊社会面34で自民党のベテラン議員が武藤氏の発言は「戦争法案と認めるようなもので、議員辞職ものだ」と述べている通り、自民党の議員でも本音は「戦争法案」だと思っているのでしょう。ここに、大勢に流される民主主義の危うさを感じます。
 ストックマンは叫ぶ「多数が正しいなんてことは決してない。決して! それはこの世をはびこっている偏見の一つだ。自由で判断力のある人間ならそんなことは信じないだろう。

 いま、まさに、このような芝居を私たちは必要としているのではないでしょうか、もう一度自分を見つめ直すために・・・
 8/21〜9/2に吉祥寺シアターにおいて、森新太郎演出による「人民の敵」が上演されます。迫力あふれる森新太郎演出も見てみたいのですけど、なにせ東京は遠い、余裕がありません。関西で再演されることを期待するのです。このような時代にこのような時期に、芝居は常に時ととも新鮮に存在するのだと思いました。


     トマス・ストックマン博士         寺十 吾(じつなし さとる)
     カトリン(ストックマンの妻)       鳥越さやか(雷ストレンジャーズ)
     ベートラ(娘)                小野寺ずる
     モルテン(息子)              山下順子(雷ストレンジャーズ)
     ペーテル・ストックマン(兄・町長)    石田圭祐(文学座)
     モンテン・キール(夫人の養父)     内山森彦
     ホブスタ(フォルケ新聞編集長)     松村良太(雷ストレンジャ−ズ)
     ビリング(フォルケ新聞記者)       田中茂弘(俳優座)
     船長                      中山朋文
     アラスク(家主組合会長・印刷屋)    霜山多加志

公演のパンプレットに鳥越さやかさんの父
鳥越俊太郎さんが寄稿されていました。



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