『地獄のオルフェウス』

観劇記 あまご 

2012.12.13
          作 :テネシー・ウイリアムズ   
           演出:岡本健一 
          tpt東京芸術劇場
         




テネシー・ウイリアムズの作品は
春の観劇ツアー「ガラスの動物園」に続き
今年は2本目となりました。
「地獄のオルフェウス」
また違った味わいの感動的な芝居でした。
この作品は
初演の「天使たちのたたかい」を17年間に渡り
なんども書き直したものだそうで
テネシー・ウイリアムズの魂の原点ともいえる作品だそうです。
オルフェウスはギリシャ神話に出てくる詩人で竪琴の名手
愛する妻を地獄から連れ戻すもう一歩のところで
後ろを振り向いてしまったため望みは叶えられず
言い寄るトラキアの女名達を冷たくあしらったため
八つ裂きにされるという物語ですが
テネシー版は微妙に違っていました。

舞台は偏見と差別と暴力に満ちた閉鎖的な南部の田舎町
居酒屋を営むレイディ(保坂知寿)は
かつて
父とともに葡萄園とワイン酒場を経営していたのですが
黒人にワインを飲ましたことで
葡萄園は焼き払われ
父は焼死
(焼き払ったのは後のレイディの夫達であることが後で分かるのですが)
その上恋人にも裏切られ
買われるように暴力的な夫ジェイブ(石橋祐)と愛の無い暮らしをしていたのです。
そこに
自由な魂を持つヴァル(中河内雅貴)が蛇革のジャケット姿でギターを片手に現れます。
地獄のオルフェスですから想像通り悲しい終末となります。
しかし
不思議な明るさと妙に爽やかな感動的な舞台でした。
どこが良かった???





 一つに
音楽というか音の効果が良かったと思います。
オルフェウスですから
中河内さんのアコースティクギターの調べと歌も良かったし
地獄の扉を開く太鼓の音
叩きつけるような不思議な響き
夫が床を杖で叩きつけ階下のレイデイを呼ぶ音

叫び!

そして優しいヴァルの語りとギターの調べ





足の無い小さな鳥が
木の枝で休むことができないから
ただひたすら飛び続け
風の中で眠る
命の終わり初めて大地に戻る・・・・


この芝居にはたくさんの登場人物が出てきます。
ガラスの動物園では4名
欲望という名の電車ではせいぜい5〜6名
テネシー・ウイリアムズの芝居は
こじんまりとした芝居というイメージが強かったのですが
冒頭から
たくさんの人たちが登場してくるので少々戸惑いました。
でも
リアリティーのある役は限定されます。
レイディとヴァルだけ?
その他の人物たちは知抽象化・ディフォルメされているのか
その表情は仮面劇のようでもあり
能を観ているようでもあり
不思議な雰囲気に包まれます。
コロスのような掛け合いもありました。

レイディの夫はまさしく地獄の王
画家で保安官の妻ヴィー(花山圭子)はニンフ
能面の看護師が(植野葉子)だとは
噂話が大好きなおばさん達(北村岳子・秋定史枝)はコロスなんでしょうね
二人の噂話からこの芝居の背景が語られます。
この芝居で最も
不思議な人物はキャロル(占部房子)
けばけばしい衣装とメークにはちょっと驚きましたが
呪縛から自らを解き放つための懸命な叫びには共感を覚えます。
焼肉ドラゴンやローザベルントとはまた違った雰囲気でした
跳ねた演技と
野生の魂の叫びが印象的でした。
「昔は野生があった、男にも女にも野生があった、野生の優しさがあった」
たたかう天使の一人かもしれません





そして最後になりますが
ロングスカートから
明るいミニの衣装に変わったレイデイの喜びは
忍びよる終末の悲劇を予感させる最後の明るさのように感じました。
悲惨で実に暗い芝居なんだけど
どこか信じられるものがある
信じなければならない
これがテネシー・ウイリアムズの芝居なんでしょう。


未来は「ひょっとしたら」だ。
未来についてはそれしか言えない。
大事なのは、だからといって恐れてはならないということだ。
The Past, the Present and the Perhaps


「天使のたたかい」

写真はパンフレットより
 


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