『ピアフ』

観劇記 あまご 

          作 :パム・ジェムス   
           演出:栗山民也 
                                  2月23日 森ノ宮ピロティホール
         

「ピアフ」を観てきました。
シャンソンの女王エデット・ピアフを描いた音楽劇です。
「大竹しのぶ」という女優の演技には圧倒されました。
以前から気になる役者さんでしたが
新劇の世界からは少し遠い存在で
昨年末の井上ひさし作品
「日ノ浦姫物語」

最初の出会いです。
幕開けのちょっとだみ声の早口言葉には抵抗を感じたのですが
それが彼女の持ち味なんでしょうか
知らぬ間に「ピアフ&しのぶ」の世界に引きこまれてしまいました。
あっという間の3時間
「バラ色の人生」や「愛の賛歌」など
お馴染みのシャンソン曲を含めて
なんと16曲も歌い上げるとは・・・そのパワーにも驚きです。


物語は
パリの貧民街の路上で歌を歌ってたくましく生きていた少女時代
ナイトクラブのオーナーに雇われた下積み歌手生活
「薔薇色の人生」の大ヒット。
一方
イブ・モンタンやシャルル・アズナブールを見出し
彼らに恋をして・・・
その他
数知れない恋・恋・恋・・・
ボクシングのチャンピオンのマルセル・セルダンとの激しい恋
二人の出会いはこの芝居のなかで殊に重きが置かれていました。
栗山民也は光と影によって出会と別れを
白い大きな布の中に喜びと悲しみを織り交ぜて
美しく表現していました。

いつもながらシンプルで見事な演出です。
白い大きな布の中で戯れる二人
幸せの中に眠りここけてゆくピアフ


そして輝く光の中に消えて行くセルダン・・・
不思議なシーンでした。
彼は飛行機事故でなくなります。
早く会いたい一心で
セルダンに飛行機に乗れと言ったことが災いしたのでした。
そして
それからは酒と薬なしでは生きられなくなってしまうのです。
寂しがり屋のピアフ。
セルダンに捧げたと言われる
愛の賛歌
日本では岩谷時子のロマンチックな訳が有名ですが
たぶん原作に近い永田文夫の訳ではなかったか
ピアフ自身が作詞したとても情熱的な詩です。
 
 空が崩れ落ちて大地が壊れても
 恐れはしないわ どんなことでも
 愛が続く限り かたく抱きしめてね
 なにもいらないわ あなたの他には
 ・・・
  おのぞみならば 祖国や友を裏切りましょう
  おのぞみならば なんでもするわ
  おのぞみならば


歌に生き
恋に生き
そして自由を求めて生き抜いたピアフ。
第二次世界大戦中
ドイツの捕虜となった人たちを救うレジスタンス運動のシーンもありました。
我がままだけど純粋で優しい心を持ったピアフ。
だからこそ
皆がピアフの歌とピアフを愛したのだと思います。
そんなピアフの波乱に満ちた47年の短い一生を描いた芝居でした。
最後は儚く(はかなく)寂しく
ボロボロになって歌い続ける晩年のピアフ
車椅子での生活
これで芝居は終わるのか?と思ったとき
車椅子から立ち上がり
まるで脱皮したかのように老けた衣装が落ちて
若き頃の黒衣装姿のピアフあらわれ歌い始めます。
水に流して
たくさんの歌を聞きましたが
この最後の歌には打ちのめされました。
素晴らしい歌です。
訳詩は違うかもしれませんが
岩谷時子訳で

もういいのもう後悔しない
昨日のことは全て水に流そう
・・・
 恋もすべてきれいにした
 ゼロからまたやりなおそう
 もういいのもう後悔しない
 昨日のことは全て水に流そう
 もういいのもう後悔しない
 新しい人生が今日から始まるのさ

「大竹しのぶ」の迫真の歌と演技に
鳴り止まぬ
芝居の世界では珍しい
「ブラボーコール」
そして
観客総立ちのスタンデイングオベーション。
客席は興奮の渦に包まれてしまいました。
2度3度のカーテンコールで
緊張感が融けたのか
最後は愛らしい笑顔を振りまきながらで
舞台の裾に消えてゆきました。

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