『翔べ原子力ロボむつ』

観劇記 あまご 
2012年5月6日(日)
          作・演出 畑澤聖吾
          渡辺源四郎商店第15回公演  ザ・スズナリ(下北沢)         


連休明けから一週間東京で橋の調査です。
でも
連休の最終日が東京で独りでは
ちょっとさびしいので
ザ・スズナリで畑澤聖悟氏の芝居。
これで嬉しい連休最終日
仕事と趣味の両立が出来ました。


 

 
  ザ・スズナリの狭いロビーには高校生や年配ご夫婦、それに怪しそうな人達も?・・・5人ずつ番号札順に案内されて中に入ると、帆前掛け姿の畑澤聖悟氏が「いらっしゃいませ」と渋い声でご挨拶。150人ぐらいの小劇場、ちょっと緊張します。

 芝居は世界中の核廃棄物を一手に引き受けていた北の地の物語です。廃棄物保管施設を誘致した若き町長エイスケは預かった廃棄物が無くなるのを見届けるために自ら冷温保存になるのです。凍結は簡単ですが人体の解凍と廃棄物処理の技術は未来に託して・・・、100年後には完成するかもしれない・・・、もしもその時無理であれば、更に100年後、更に更に更に100年後・・・・
 


 エイスケが蘇った1000年後の北の地は、度重なる津波と地震から数万の大小バラバラの島となった日本から独立したリンゴ王国。「核廃棄物=ヤバッチモノ」は「むつ」という巨大な冷蔵庫のようなロボットの体内に保存されたままでした。エイスケは再度、冷温保存に、そして2000年後はイカ帝国、3000年後には人類は滅亡、4000年後は氷河期、5000年後4本足の生き物が生まれるのですが「廃棄物=ヤバッチモノ」はまだまだ元気、1万年・2万年・5万年・・・・
こんなお話です。

 日本の原発がすべて停止したのが5月5日、その翌日に、こんな芝居が観れるとは、驚きです。原発には、なんとなく不安を感じていましたが、個人的には原子力の平和利用はどちらかといえば賛成でしたから、いま、原発反対と単純に叫ぶには少々後ろめたさがあります。福島の事故を考えると、原子力はとても現在の人間の手におえるものではない、廃棄物処理はこれからの科学技術の発展に託すしかない、つまり、原子力に対する研究をもっと進めなければならないというジレンマに落ちいってしまいます。原子力の問題=廃棄物の処理の課題を、もっと深く考えなければ・・・。今、福島で何が起きているのかあまり報道されなくなりましたけど、もっともっと明らかにしなければ、知らなければならないことがあるように思えるのです。

 この芝居は、辛い物語です、でも、どこかに温かさも感じられます。それは地下に埋められた原子力ロボ「むつ」がエイスケとの会話から夢を持ち始めた事や、核廃棄物やエイスケのお世話をする「さつき」と「ミナズキ」という可愛らしいロボットの存在などが、絶望でなく希望として抽象化されているせいなのかも知れません。ロボットを仮に科学と置き換えるなら、そこには、「科学は自然や人間性と共にあるべきだという」畑澤氏の想いが見えてくるような気がします。このような旬の芝居をたくさんの人達に是非、観て欲しい思います。  


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