『殿様と私』

観劇記 あまご 

2013年12月21日
神戸文化ホール
神戸演劇鑑賞会12月例会
          作 :マキノノゾミ   
          演出:西川信廣 
          文学座

         
 今年最後の芝居は「殿様と私」、こんな言い方があるのかどうかわかりませんが、一言で言えば「ペーソスに溢れた喜劇」、私はこんな喜劇が好きです。
あらすじは、文学座のパンフから

 1886年(明治19年)、東京・麻布鳥居坂の白河義晃子爵邸。当主の白河義晃は急速に西洋化する日本になじめず、酒浸りの日々を送っていた。
ある日、外務卿・井上馨の書生と白河家の家令雛田源右衛門の間に一悶着が起きた。雛田は時代遅れのちょん髷をからかわれたばかりか、因循姑息な白河子爵は華族の資格なしと罵倒されたのである。それを聞いた義晃は怒り心頭に発し、これまた時代遅れの討ち入りを決意。しかし、〈白河家を守るには鹿鳴館に乗り込み、見事なダンスを披露して和魂洋才の手本を示すこと〉という長男義知の提言に、お家のためならやむを得ずと渋々承知の義晃。米国人のアンナ・カートライト夫人を指南役に、義晃のダンス修行が始った。
さて、その成果は・・・。


文学座2013カレンダーより


文学座2014カレンダーより

 急激な西洋化は、はたして誰のために・・・「三井の番頭さん」とバカにされるほど賄賂と利権で私腹を肥やした井上伯爵の書生にからかわれたのでは、腹の虫が収まらないのは当然でしょう。しかし、こうした怒りをやんわりと喜劇風に仕立てあげたこの芝居、深い味わいがありました。

 明治の近代化(西洋化)は、この国に住む人々をいかに利用するかという方向に暴走して行きましたね。日本だけでなくアジヤ全体を道連れにして・・・

 劇中で日本人とインド人を置き去りにして西洋人乗組員はボートで逃げて全員無事だったというノルマントン号事件が出てきます。裁くのは英国人で1審は全員無罪、2審は禁固3ヶ月、ひどい判決です。日本人乗客25名とインド人13名は何故、助からなかったのか、ふと、出れないようにカギをかけて閉じ込められたタイタニック号の三等客室の映画の場面を思い出しました。

 当時の西洋人の意識には、他人種や下層の人たちに対する傲慢な気持ちがあったのでしよう。芝居では現われませんが、事件の翌年、急激な西洋化を急いだ井上馨は、この事件への世間の反発を喰らい失脚します。芝居は忘れられた歴史を呼び起こしてくれます。

 一方、西洋には非人間的な側面と対照的なデモクラッシーがありました。米国人のアンナ・カートライト夫人がそうです。実の娘を亡くして、気持ちを振り切るために鉄道技師の夫と共に日本に来たのです。彼女が白河義晃の娘雪絵をアメリカに連れて帰り、最も進んだ教育を受けさせたいと・・・

 雪絵は父が許してくれないのではというのですが、アンナは「お父様や家が決める事ではない、自分自身が決める事だと・・・」

案の定、義晃は反対しますが、アンナと二人お酒を飲み交わすなか、何もしてやれなかつた亡き妻のことを思い出して行きます。会話はすべて二人の母国語、なのに舞台では日本語です。上手い手法だな〜と感心させられます。そして

 



アンナ もうよしましょう。これでは会話にならないわ。それよりダンスをしましょう。
義晃  ダンス?
アンナ ええ。踊りましょう。
義輝  よかろう。のぞむところだ。
     その前に、そなたに頼みがある。
アンナ ???
義晃  雪絵をつれて行くなら、三太郎も一緒に
アンナ 二人の結婚を許すの?
義晃  異国の地なら華族も平民もなかろう。
     ・・・
アンナ さっ、とのさま

 二人は風雅なワルツを再度踊り始めるのでした。

 ・・・ 幕 ・・・


 娘雪絵を通訳兼車夫の三太郎を伴ってアメリカに行くことを許した、一見、頑固に見えてもなかなか柔軟な義晃子爵、きらっと光る知性でした。最後のカートライト夫人とのワルツはとても楽しそうでした。幕とともに一筋の涙が頬に伝わります。
相当のネタバレですが、神戸公演が全国ツアーの最後ですから・・・
翌々日の23日、東京調布で千秋楽だそうです。6年間本当にお疲れさまでした。
楽しい芝居ありがとうございました。

配  役
白河義晃(子爵 白河家当主)
白河義知(義晃の息子 陸軍中尉)
白河雪絵(義晃の娘)
雛田源右衛門(白河家の家令)
雛田カネ(源右衛門の妻)
熊田三太郎(アンナ専属の車夫・通訳)
ジョン・ラング(英国海軍大尉)
アンナ・カートライト(鉄道技師の妻)
たかお鷹
佐川和正
松山愛佳
加藤 武
寺田路恵
沢田冬樹
星 智也
富沢亜古

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