『とりつくしま』

観劇記 あまご 

          原作:東 直子(ひがし なおこ)  
           脚本・演出:眞鍋卓嗣
          
         
2013年4月22日 
シアタートラム(三軒茶屋)


  東京観劇旅行の第一弾は劇団俳優座公演「とりつくしま」です。原作者:東直子さんは神戸女学院出身の神戸ゆかりの作家・歌人、脚本・演出は俳優座の若手演出家:眞鍋卓嗣さん、昨年の「かもめ」の演出は見事でした。今日の舞台が楽しみです。
 舞台はパイプで組み立てられた2階建ての空間、電車のつり革や会議テーブル、ベッドなどが無造作に置かれていて、これから始まる芝居が暗示されているようです。眞鍋演出による「かもめ」の舞台は登場人物の一人一人に小さな舞台があり、まるで人生を引きずるかのように、芝居の展開に合わせて役者さん達が自分の舞台をロープで引っ張って行くという芝居でしたから、舞台の空間に置かれている道具が想像をかきたてます。
 「とりつくしま」の物語、劇団のチラシにこう書かれていました。

死んで心残りがある人は、
この世のなにかモノを「とりつくしま」にできる。
死んでしまったあなたに、「とりつくしま係」が問いかけます。
心残りはありませんか?
なにかモノにとりついて、
一度だけこの世に戻ることができますよ。
さあ、あなたはなににとりつきますか?
大好きな人の?
大好きな人のなににとりつきますか?
でも、とりつくだけです。見守るだけですよ。


 この芝居はオムニバス形式の7つの物語、死んでしまった人に、「とりつくしま係」が問いかけます。最初の物語は息子陽一の中学校最後の軟式野球の公式戦を見届けるために、「ロージンバッグの粉になった京子さん(清水直子)」、とりつくしま係が取り出した誓約書に息を吹きかけると、突然舞台は暗転、そして明るくなって、会議テーブルの上に陽一君と京子さんがいました。



 陽一君がコースを見据えて、ゆっくりと振りかぶると、京子さんが陽一君の後ろにくるりと回り込む。涙目の陽一君と陽一君を優しく見つめる京子さんの笑顔が素敵です。試合は満塁になってしまった、このままヒットを打たれたらサヨナラ負け、陽一君ロージンバッグに手を置いて叩いた、粉は空中にはじけて、京子さんのとりつくしまも、はじけさってしまいました。


『お久しぶりです、浜先生。また夏がめぐってきたのですね』で始まる
「白檀の扇子」は
大好きな漱石の夢十夜の第一夜「百合」のようにロマンチックなお話でした。
通りすがりの年配の書家の浜士郎先生(仲吉卓郎)に憧れた
16才の少女桃子さん(若井なおみ)は書の道に進み
5年後に浜士郎先生に再会
大学を中退して
浜先生に弟子入りします。
21歳の桃子ちゃんから
桃子さん
桃子先生になり
皆に慕われていたのですが
何故か突然若くして亡くなります。
白檀の香りは浜先生の香り
桃子さんは以前
先生に中国旅行のお土産におくった白檀の扇子にとりついていたのでした。
 『先生、好きでした。』
白檀の扇子となった桃子さんは風となって先生の中に。
『まさか、桃子さんが先に逝ってしまわれるとは・・・
私が先に逝ってしまえば桃子さん喜ばれたでしょうにね』

奥様の声
先生は扇子を閉じて立ち上がり
『そんな言葉桃子さんは喜ばれませんよ』

奥様の肩に手を添えて・・・
そして夏が過ぎ、暗い引き出しの奥に・・・

『浜先生、また夏がきたらお会いしましょうね』
美しい舞台でした。

 7つのお話ですから全部を紹介できませんが、孫のカメラにとりついたハナエさん(阿部百合子)、カメラは質屋に売られていて、買ったのが一人暮らしの源三さん(荘司肇)、荘司肇さん百合子さんにとりつかれて幸せそうでしたね。




 あの世の世界のお話ですから、辛くて悲しい芝居になるのかと思ったら、なんだか楽しくて、死んだら何にとりつきましょう。ワクワクするような芝居でした。自分がいなくなったとき、その時はその時。誰もがとりつけるわけではなさそうですし、とりつくさきが幸せでないとちょっと悲しいですから。

 芝居がはねたあと、荘司肇さん、若井なおみさん、清水直子さん、そしてとりつくしま係の河内浩さんを囲んで、東京観劇ツアーの4名と神戸の「おしゃべり新劇史」のメンバー総勢10名でしばし懇談、「とりつくしま」は今夜はソアレもあるので・・・今度は「是非神戸でお会いしましょう」暫しのお別れです。
写真は俳優座のHPから




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