『夜明けに消えた』

観劇記 あまご 

          作  :矢代静一   
          演出:須藤黄英
          劇団青年座 
          
         

初演は1968年
神戸でも1970年1月に上演されている
幻のような名作。
初演から45年ぶりに再び青年座によって上演された。




舞台は
突然蒸発してしまった女性関係も派手な
新進デザイナー「ノッポ」というあだ名の男から
その友人の演出家の元に一冊の戯曲が届けられた設定で始まる。
そして
その戯曲から芝居が展開するという劇中劇の構造となっていた。
戯曲の世界はイエスがゴルゴダの丘で
十字架にかけられた直後のある洞窟を舞台として展開して行く。
洞窟の中を表した細長い舞台が目の前にあって
舞台の後ろにも観客席がある。
つまり観客は舞台をサンドイッチにして芝居を観ていることになる。
観客は目前で演じられる芝居を見ると同時に
数m後ろの観客の表情の変化も見ることが出来るのだ。
女たらしで酒に頼る日々を送る「ノッポ」
盗賊「ケチ」と「弱虫」の姉弟
「熊」と呼ばれる異様な風体の被差別部落の青年
純粋無垢な娼婦「ひばり」
そしてノッポの妻となる「ぐず」と呼ばれる純真で聖女のような美しい娘
この若い3人の青年と3人の娘の物語が
青年座劇場の小さな舞台空間で始まり
不思議な余韻を持って終わってしまった。





それにしてもこの芝居は残酷な芝居であった。
いつの世も権力というものが
どれだけ人間の心を引き裂き愚かな仕打ちを浴びせる事か。
お金、貧困、差別
そして、神、愛。
何を信じ人はなぜ生きてゆくのか。
青春の壮絶な心の戦いは観客席にひしひしと伝わってくる。
私はもう若くはないけれど
反対側の観客席にいる若者の真剣な表情が僅かな身体の動きが
若い役者さん達の力のこもった演技と重なりあって
増幅しながら伝わってくるのだ・・・・・。
ラストは美しく爽やかでした。
夜明け前のホリゾントの中に消えてゆくノッポとぐず
観客には見えないけれど
ひばりには見えるのだろう・・・。


上機嫌で手を振っているの
ノッポだ
ぐずまで手を振っている・・・
海に首までつかりながら
上機嫌で・・・
違うかな? 違うかな?

二人は追われて海の中に消えて行くのか?・・・
私には新しい世界で二人が
今度こそは素直に愛し合ってしっかり生きて行くのだと感じた
そう願った。
日が昇り始めていく海に手を振り続けているひばりの瞳がとても美しかった。

写真はパンフレットより
 


ノッポ :豊田茂      ぐず :田上唯
弱虫 :須田裕介       けち :有馬有貴
熊 :石井淳            ひばり :香椎凛 他

 田上さんと香椎さんは横浜短編ホテルにも出演されていましたね。







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